一輪 ページ1
「げぇ…」
目の前に広がる光景に、私は顔を歪ませた。
転校してから数日。
妙な時期に転校したこともあり、クラスメイトに囲まれ質問の嵐にあっていたのがやっと止み、登下校を共にしたり、お弁当を一緒に食べる友人ができた直後。
女学校からの帰り道、友人の一人である美沙子ちゃんが
「今日私の家に来て!とびっきりのお洒落をしてね!」
と私の肩を掴んでにこやかに言ってきた。
美沙子ちゃんのお家のホームパーティに招待してくれるのかと思ったが、話を聞くと、そうでは無いらしい。
なんでも、美沙子ちゃんのとっておきの場所に連れて行ってくれるとか。
その後、私は美沙子ちゃんと別れ、家に帰るや否や自室のクローゼットの中身を次々と取り出してはほおり投げ、着ていく服を見立てていたが、全く決まらない。
一体何処へ連れていかれるのか。
ドレスコードのある所なのか。
はたまたそこいらの駄菓子屋だったりしたら?
それなら妙に気合いの入った服装は恥ずかしい。
しかし新しい学校に転校してきて数日、
ここでの友達と放課後に遊ぶのは初めてだ。
私服のセンスがないと思われるのは避けたい。
そんなこんなで頭を悩ませながら、結局は美沙子ちゃんの「とびっきりのお洒落をしてきて」という言葉に従い、最近買ったばかりのピンクのスカートに白のブラウスを合わせた。
鏡に写る自分を見て、やはりどんなに服が可愛くても着る人が地味では様にならないな、と我ながら珍しくネガティブに考え、ふと時計を見ると、待ち合わせまであと30分しかないことに気付いて、家をとびだした。
美沙子ちゃんの家まではそう遠くないが、ブーツを履いているため、少し走りづらい。
それに、今日は美沙子ちゃんの他に、茜ちゃんと優希ちゃんも来るそうだから、遅れて印象を悪くするようなことはしたくない。
脚を美沙子ちゃんの家へ走らせながら、今日の行先について、私はもう一度思案してみた。
西洋化が進み、街には次々と舞踏館や劇場などが建てられていったが、それらは大体は由緒ある華族の方々が楽しむ場であって、私達のような17の娘が遊べるような場所は無かった気がする。
強いて言えば、街の行き当たりに餡蜜屋があっただろうか。
しかしその近くには中原遊郭がある。
私が最も立ち入りたくない場所だ。
まあそこは男性達が一夜の夢を見に訪れる場所。
女性が入れる日もあるらしいが、年頃の少女たちが遊女を求めるなど、ありはしないだろう。
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藍瑠(プロフ) - 夜さん» ありがとうございます!そう言って頂けて本当に嬉しいです。続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - ウルさん» ありがとうございます!嬉しいです、続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - 匿名希望さん» ありがとうございます!更新頑張ります! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - Haoto-ハオトさん» ありがとうございます!更新不定期ですが、気長にお待ち頂けると幸いです! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - えゆさん» ありがとうございます!続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍瑠 | 作成日時:2020年3月16日 20時