嫌な奴 ページ38
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嫉妬ばかりが先行した故の短絡的な行動ではなかった。
俺がAを好きなのは事実だし、そんな彼女の告白を数ヶ月前に断ったこともまた事実だった。
「…………ごめん。」
いつかどこかの誰かの声が、脳内で重なり合う。あぁ、俺がAに言ったんだったか。謝ってばかりだ。本当に、本当に情けない。
Aは分からないと言った顔で、ただ俺を見つめていた。
Aと宿儺の仲が良いのを俺は知っている。そしてその好意の中に少なからず友人を逸脱したそれが混じっているのも、多分、俺は知っていて。
Aは優しいから。優しいAが気まずくならないように、俺に冗談めかした好意を口にして接してくれていることも俺は知っていた。その上でその優しさに甘えていたんだ。
一度好意を寄せられた女性に対する上辺だけの独占欲だけではない。
本当に、好きで。ずっとずっと大好きで、それでも数ヶ月前の彼女の告白を前に素直になれなかった自分への罰が今下っただけだ。
「もう、あの時の俺じゃないよ。」
後悔だなんて二文字は嫌という程知っている。
「好きだ。」
一歩、俺はAに近づいた。
その瞳に映るのが俺だけなら良かったけど、やっぱり、顔が同じだからかな。
今目の前にいるのは俺なのに。君に好きを伝えているのは俺なのに、君の瞳には俺以外の誰かが映っているんだろうな。
「……悠、仁」
掠れた声で俺の名を呼ぶAの手を取る。
ビクリと肩を揺らす君が可愛くて、本当に、可愛くて。
あと数瞬、間を持たせたなら。何かが起こりそうなその時に、Aの目が大きく見開かれて固まった。
遠く、遠く聞こえる足音。
照らす夕日。夏初めの気怠い空気が、喉に張り付く。
Aの瞳に映った、もう一人の影。
「───……A?」
たった一言。名前を呼んだだけの彼の声に、Aは分かりやすく顔を強ばらせた。
やっぱり、駄目じゃん。俺は好きを伝えても、こうやって手を取って触れてもそんな顔はさせられない。お前は名前を呼んだだけで、Aの心を独り占めできるんだから。
俺の方が、人から好かれてきた。
俺の方が、彼奴よりも上手くやってきた。
それ、なのに。
……俺って、こんな嫌な奴だっけ。
「……い、やっ!」
Aの手が離れる。Aの背が遠のく。
最後に見えた涙は、誰の為なの、A。
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眠民。 - 完結おめでとうございます!!私は虎杖ガチ勢(既視感)なのですが、ゆきさんのお話がきっかけで宿儺沼にもハマりかけています‥!受験生なのに神作品ありがとうございました!頑張ってください!!応援してます~!! (11月26日 14時) (レス) id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
シロツメココロ - 完結おめでとうございます! ゆきさん小説が私の宿儺推しに目覚めさせてもらったキッカケです。もう、宿儺小説を読み漁って漁って……次回は夏油さんですか!頑張ってください。受験…私も来年通る道です。応援しています (2021年3月17日 18時) (レス) id: a3d2b1e1b5 (このIDを非表示/違反報告)
琴吏(プロフ) - 完結おめでとうございます!!ゆきさんの書く宿儺と悠仁が大好きです、、泣 宿儺が幸せな恋を描いて下さりありがとうございました! (2021年3月17日 14時) (レス) id: 94ce9bc83e (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - ちっぷさん» ちっぷさん!コメントありがとうございます!!前も言ったかもしれませんが、ちっぷさんは宿儺メインを書くきっかけになった方と言っても過言ではありません!新たな可能性を与えてくれて本当に感謝してます!最後までお付き合いありがとうございました! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 麦茶さん» 麦茶さん!沢山のコメントありがとうございます!!とっても励みになりました!やっぱ皆宿儺様好きなんだなあって……笑 こちらこそ、貴重なお時間をこのお話に割いて頂けて嬉しいです!! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月25日 23時