取り繕う ページ36
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私と宿儺を殴った三年生の先輩は無期停学処分を食らったらしい。
受験を前に可哀想だと思う反面、本来ならば犯罪に値する行動の割には甘い処罰だと思ってしまう自分がいる。
私の怪我は思ったよりも大したことはなく、その日のうちに病院を後にした。家に帰ってから母に散々な程叱られた。父はやはり、笑って。
「──そうだ、悠仁にこれ。」
いつものように悠仁と二人の帰り道。
私が彼に手渡したのは手作りのお菓子。
「え!すげえ!手作り?くれんの?」
「うん、折角作ったから……あ!こっちは宿儺に渡してくれる?」
「……宿儺に?」
そう言って私が取り出したのは、今悠仁に渡したものよりも少しだけ豪華なお菓子。こちらも手作り。
自身のそれと違う包装に、悠仁は少し変な顔をしていた。
「前にお世話になったからそのお礼。ありがとうって伝えといて。」
宿儺に直接渡さなかったことに大して意味は無い。関係の無い悠仁にも一応のものを渡したことも同様だ。
ただ会う機会が無いだとか、また学校に出向いたらそれこそ迷惑がられるだろうとか。
宿儺の分だけ渡したら悠仁が拗ねるだとか、でも同じクオリティの物を渡してしまっては今度は宿儺に申し訳ないだとかそんなこと。
宿儺の分を受け取った悠仁は、一瞬間言葉を失って。
「…………お礼、ね。」
ぽつりと。
いつもにも似ない低い声で、私の言葉をなぞるように呟いたのだ。
「わかった。渡しとく。宿儺もきっと喜ぶよ。」
ぱっと顔を上げて悠仁は笑って見せた。
……何、なのだろう。拭いきれぬこの違和感の正体は。
思えば、ここ最近の悠仁はずっとこんな感じだ。
底抜けに明るい普段の様子が見られることもあれば、今みたくふと何かを考え込むように黙ったり。
かと思えばそれを取り繕うように少し不自然な笑顔を見せては、それ以上を悟らせないように一線を引いて平静を装うのだ。
そして、それは私に対してだけだった。
「……悠仁?」
勘違いではない。一年と少しを共にして、私は彼を知っているから。
「何?」
「なんか、怒ってる……?」
「別に怒ってないよ」
「嘘、じゃあ何でそんなに怖い顔してるの。」
「……怖い?」
「うん、怖い。」
そっか、と零す彼の瞳は、アスファルト色に染まっている。
今度はもう、取り繕うことなんてしなかった。
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眠民。 - 完結おめでとうございます!!私は虎杖ガチ勢(既視感)なのですが、ゆきさんのお話がきっかけで宿儺沼にもハマりかけています‥!受験生なのに神作品ありがとうございました!頑張ってください!!応援してます~!! (11月26日 14時) (レス) id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
シロツメココロ - 完結おめでとうございます! ゆきさん小説が私の宿儺推しに目覚めさせてもらったキッカケです。もう、宿儺小説を読み漁って漁って……次回は夏油さんですか!頑張ってください。受験…私も来年通る道です。応援しています (2021年3月17日 18時) (レス) id: a3d2b1e1b5 (このIDを非表示/違反報告)
琴吏(プロフ) - 完結おめでとうございます!!ゆきさんの書く宿儺と悠仁が大好きです、、泣 宿儺が幸せな恋を描いて下さりありがとうございました! (2021年3月17日 14時) (レス) id: 94ce9bc83e (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - ちっぷさん» ちっぷさん!コメントありがとうございます!!前も言ったかもしれませんが、ちっぷさんは宿儺メインを書くきっかけになった方と言っても過言ではありません!新たな可能性を与えてくれて本当に感謝してます!最後までお付き合いありがとうございました! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 麦茶さん» 麦茶さん!沢山のコメントありがとうございます!!とっても励みになりました!やっぱ皆宿儺様好きなんだなあって……笑 こちらこそ、貴重なお時間をこのお話に割いて頂けて嬉しいです!! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月25日 23時