窮屈 ページ28
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自分が兄のような人間になれないことはとうの昔に分かりきっていた。
誰からも好かれ、誰にでも優しい。
そんな兄に密かに憧れていたのも、もう最近の話ではなくって。
同じ人間は二人も要らない。兄が皆から褒めたたえられるような人間なら、俺はその逆を行くだけだ。
恐れられ、疎まれ。別に一人は嫌いじゃないけれど。
俺に与えられた、俺だけの弟としての役目が、俺には少しだけ、窮屈で───。
「…………。」
凝り固まった首を捻りながら、目の前で怒りのようなものをぶちまけている男に視線をやった。
──自分の見た目がおおよそ感じが良くないことを俺は知っている。故に喧嘩を売られることは多いし、故に“俺が人を殴った”という切り取られた事実だけが一人歩きすることも少なくない。
病院からの帰り道。近道だからと人気のない場所を通ったのがいけなかった。
偶然そこに居合わせた男──見るに悠仁と同じ学校のこの男は俺を知っているらしく、俺を見るなり己の阿呆を露呈するように騒ぎ出したのだ。
大方喧嘩でも売ろうとしたのだろう。振りかぶる右手を受け止め、そのまま男の腕を後ろに締め上げた。
……弱い。本当に何なんだ、こいつ。
「いでででっ!!離せっ、離せよ!!」
「お前からふっかけてきたんだろう……」
ぱ、と締めていた手を離せば素早く距離をとる男。
喧嘩を売りに来た、という割には些か弱すぎる。が、正直どうでもいい。
そもそも喧嘩が好きな訳では無いし、今までの噂も売られてたから仕方なく買ったまで。
好んで暴力を振るうことはまずない。だから、もうコイツに構う理由はないのだけれど。
「お前っ……、俺の事……覚えてないのか」
「あ?」
「二ヶ月前に俺の事警察に突き出したの……お前だろ……!!」
「…………あぁ、あの時の」
男の顔を見てもピンと来なかったが、与えられた情報を元に辿れば一人の男が思い浮かんだ。
確かに俺はこの男が財布をスる瞬間を見た。そしてその場で捕まえ、警察に通報したが。
「……下らんな。」
つまりは逆恨みだ。本当に、本当に下らない。
正直もう相手をするのも面倒くさかった。
「……泣いて謝れば、許してやるよ」
「はあ?何故俺が謝らねば、」
がん、と。
鈍い音が、瞼のすぐ裏で鳴ったと思えば。
「っ、……!」
鋭い痛みに耐えきれず、俺は地面に膝を着いてしまった。
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眠民。 - 完結おめでとうございます!!私は虎杖ガチ勢(既視感)なのですが、ゆきさんのお話がきっかけで宿儺沼にもハマりかけています‥!受験生なのに神作品ありがとうございました!頑張ってください!!応援してます~!! (11月26日 14時) (レス) id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
シロツメココロ - 完結おめでとうございます! ゆきさん小説が私の宿儺推しに目覚めさせてもらったキッカケです。もう、宿儺小説を読み漁って漁って……次回は夏油さんですか!頑張ってください。受験…私も来年通る道です。応援しています (2021年3月17日 18時) (レス) id: a3d2b1e1b5 (このIDを非表示/違反報告)
琴吏(プロフ) - 完結おめでとうございます!!ゆきさんの書く宿儺と悠仁が大好きです、、泣 宿儺が幸せな恋を描いて下さりありがとうございました! (2021年3月17日 14時) (レス) id: 94ce9bc83e (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - ちっぷさん» ちっぷさん!コメントありがとうございます!!前も言ったかもしれませんが、ちっぷさんは宿儺メインを書くきっかけになった方と言っても過言ではありません!新たな可能性を与えてくれて本当に感謝してます!最後までお付き合いありがとうございました! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 麦茶さん» 麦茶さん!沢山のコメントありがとうございます!!とっても励みになりました!やっぱ皆宿儺様好きなんだなあって……笑 こちらこそ、貴重なお時間をこのお話に割いて頂けて嬉しいです!! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月25日 23時