単純 ページ18
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俺は、弱い。
何がって心が。何にって押しに。
───あれから僅か数分にも満たない攻防戦の後、俺は結局橘Aと“お礼”という名目上放課後の時間を共にすることを余儀なくされてしまい。
「さーどこ行くどこ行く?スタバ?タピオカ?」
「……お前自分が行きたいだけだろ」
「ぐ、……う」
ぐうの音が出てる。しまえ。
「……別にどこでもいい」
「うわ出た。男って優柔不断が一番モテないらしいよ。」
「帰る」
「わー!ねえ!ごめんて!!」
くるりと身を翻した俺の腕を掴んで喚く橘。俺を引き留めるには幾らか非力すぎるが、俺は不思議と止まってしまい。
別に、本当に帰ればよかっただけなのだが。
「……どこでもいいから、さっさと済ませてくれ。」
正直な話。
俺は此奴の真の意図が全くもって見えなかった。
幾ら真面目が過ぎると言えど、ここまで遠慮されたらそれを汲み取って退くのが普通だろう。
……別にこの女がどうという訳では無い、が。
単純に。本当に単純に。
俺は此奴が、分からない。
「……。」
「……おい、急に黙り込んでどうした。」
「……いや、……そ、の」
先程までのおちゃらけた喋りはどこへやら、彼女は口元をモゴモゴとさせながら言葉に詰まっているようだった。
開閉を繰り返し、しかし声にならず。
そんなことが、何度か積み重なった時。
「……迷惑、だった?」
本当に。本当に先程までの強気な橘Aはどこへ消えた。
「……別に迷惑だとは言っとらんだろうが」
「で、でもなんかすっごい嫌そうだし……」
「前も言ったはずだ。貸しは作りたくない、それだけだ。」
俺の返事を聞いても、橘はいまいち腑に落ちない様子で視線をうろつかせていた。
……らしくない。こんなことで狼狽える奴ではなかった筈なのに。
「あの、ね。」
パチリと。大きな瞳が、瞬いた。
「本当は、お礼って、嘘なの。」
「……は?」
「半分本当で、半分嘘。……お礼、も。勿論したいけど、それ以前に、」
とん、と靴先が鳴った。
ぐい、と彼女が俺に近づいた。
「……仲良くなりたいなって、思ったの。
…………駄目、だった?」
一瞬間、俺は何を返していいかわからず、目を見開いて固まり。
「……、あー…………、」
なかなかどうして、俺も橘も単純だったらしい。
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眠民。 - 完結おめでとうございます!!私は虎杖ガチ勢(既視感)なのですが、ゆきさんのお話がきっかけで宿儺沼にもハマりかけています‥!受験生なのに神作品ありがとうございました!頑張ってください!!応援してます~!! (11月26日 14時) (レス) id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
シロツメココロ - 完結おめでとうございます! ゆきさん小説が私の宿儺推しに目覚めさせてもらったキッカケです。もう、宿儺小説を読み漁って漁って……次回は夏油さんですか!頑張ってください。受験…私も来年通る道です。応援しています (2021年3月17日 18時) (レス) id: a3d2b1e1b5 (このIDを非表示/違反報告)
琴吏(プロフ) - 完結おめでとうございます!!ゆきさんの書く宿儺と悠仁が大好きです、、泣 宿儺が幸せな恋を描いて下さりありがとうございました! (2021年3月17日 14時) (レス) id: 94ce9bc83e (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - ちっぷさん» ちっぷさん!コメントありがとうございます!!前も言ったかもしれませんが、ちっぷさんは宿儺メインを書くきっかけになった方と言っても過言ではありません!新たな可能性を与えてくれて本当に感謝してます!最後までお付き合いありがとうございました! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 麦茶さん» 麦茶さん!沢山のコメントありがとうございます!!とっても励みになりました!やっぱ皆宿儺様好きなんだなあって……笑 こちらこそ、貴重なお時間をこのお話に割いて頂けて嬉しいです!! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月25日 23時