19 ページ19
▽
昔から健康体で 熱なんかめったに出たことはなかった。
高熱が続いて 食べていなくても吐き気が止まらない。こんなにも辛いのはうまれてはじめて……、そのはずなのに なんだろうこのデジャヴ。
小さいときのことを思い出している？
いや……きっと、もっと昔……。
まわりがどんなに止めても、絶対にそばを離れてはくれなかった。
はじめは前向きな言葉をかけてくれていたけれど、次第に何も言ってくれなくなって
せめて、最後のときまで自分がうつるようにとそばにいてくれた。
何も、誰も、悪くないのに
何度も彼から謝罪の言葉を聞いた。
……ああいやだ、なんでいまこんな夢を見るの？もしかして私も……なんて嫌な考えが頭によぎる。
菊池先輩、ちゃんと話せたのかな。
はやく学校にいって直接聞きたいよ。
……でもお願いをきいてくれたら、先輩につきまとっちゃいけないし、夢の話ももうできないのか。
｢……ふうまさん、｣
薄れゆく視界の中、そっと彼の名前を呼ぶ。
私に王子さまなんていない。
･
｢……あ、起きた？｣
熱がようやくおさまってきて、来週からはやっと 学校に行けるなって思いはじめたとき……。
なぜか目が覚めるとマスクをつけた菊池先輩がいた。
｢えっ、なっ、えっ！？｣
どうしよう、なんで先輩 私の家……
あ、そっか この前一緒に帰ったんだった……それにしても、どうして？
とりあえず、うつしてしまわないように
私もマスクをつける。
うう……顔も頭もめちゃくちゃなのに……。
｢なんか、すんなり入れてもらえたけど 夢の話って親にもしてたの？｣
｢え、してないですよ？｣
｢ずっと ふうまさんふうまさん って言いながら泣いてたって……｣
｢あ……、たぶん、寝言です｣
｢まだ悪夢続いてるんだ｣
あ、と思い出したように 先輩はレジ袋を差し出した。中には プリン、焼きプリン、いちごのプリン、瓶のちょっとお高そうなプリン……。
｢お見舞い。病み上がりでもこれくらいなら食べられるでしょ。今まで貢がれたお返し｣
｢……｣
｢あ、ほんとはプリン嫌い？｣
｢や、だいすきです、でもそうじゃなくて……｣
ごめんなさい。もう重ねないようにしなきゃって、わかってるのに……。
｢桃とかのほうがよかった？｣
｢え、｣
｢むかしの俺はそうしてたんでしょ？｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 313人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆき
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/my.php
作成日時：2021年8月22日 22時
