第10話 ページ11
「あ……っ。」
ズキッとした痛みと同時にそんな声をあげてしまった。
喉元に噛み付いた彼はじわじわと私の血を吸っていく。
前回のように勢いよく吸っていないからか、特に貧血症状のようなものは現れない。
その代わり時間をかけ、少量ずつ血を吸われると何だか変な感覚になった。
ゾワゾワとするような…落ち着かない感じだ。
私の背中に回った彼の手は吸うごとに力が強まっていた。
そのせいか徐々に距離も縮まる。
どのくらい時間が経ったかわからないが、ふいに自分の皮膚に突き刺さっていた牙が抜かれた。
タラリと血が喉元を伝うのが分かったと同時に、生暖かいものが私の喉を這う。
「ひ…っぁ。」
突然のことで変な反応をしてしまうと、舌を這わせた本人は私の顔をまじまじと見つめた。
何をそんなに見ているのかと首を傾げると、なぜか困ったように笑う。
「な、なんですか。」
「それはわざとか？」
「何がですか？」
その返事に更に笑い、彼は私の顔横へ手を伸ばす。
見せつけるように手で髪をすくい上げた。
真っ赤な瞳を細め、フッと笑った彼は私を見つめる。
その顔は、つい息を呑むくらい恐ろしく、美しかった。
無意識だったのだと思う。
私も手を伸ばし、彼の頬へと触れた。
「…綺麗。」
ボソッとそう呟くと、ルク様は初めて見るくらい驚いて固まってしまった。
かと思うと、愉快そうに笑い出す。
「ぷっ…あはは！お前、普通そんなこと言わないだろ。」
「へ？な、何が？」
「吸血鬼に綺麗だとか……ふっ。はは、お前本当…っ。」
彼は随分と楽しそうに肩を震わせ、無邪気な笑顔を見せた。
こんなに笑うとは思っておらず、私もおかしくてつい口元に手を当て吹き出してしまった。
「ふっ、ふふ。ルク様、そんなに笑えたんですね。」
「はー？面白いことがあったら笑うだろ。俺を何だと思ってたわけ？」
「だって……ふふっ。」
「お前も笑ってるじゃねーか。」
なんて言いながら、彼は私を椅子から下ろした。
隣に立つ彼を見上げると、向こうも私を見て笑った。
「今日は自分で歩けるな。」
「大丈夫です。」
「よし。」
そう言って彼は私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
次に、その手を私の頬へ移動させる。
ルク様は先程のように綺麗な顔で微笑んだ。
「行くぞ、A。」
「…はい。」
この時、少し胸がキュッと締め付けられた気がしたのは気のせいだろうか。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 120人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ユーリ(プロフ) - きのこさん» コメントありがとうございます！これからゆっくりですが更新出来たらなって思ってます！読み返していただいてありがとうございました(^^) (3月21日 22時) (
レス) id: 8c2671b61f (このIDを非表示/違反報告)
きのこ - 久々に読み返そうとしたら更新されてた！このお話とても好きなので嬉しいですありがとうございます！ (3月12日 11時) (レス) id: 7efd4a51d7 (このIDを非表示/違反報告)
ユーリ(プロフ) - しゃけおに専門家さん» コメントありがとうございます！更新がんばりますのでよろしくお願いします！ (2022年4月24日 12時) (レス) id: 1b15c65b45 (このIDを非表示/違反報告)
しゃけおに専門家 - 好きです！ルク様の作品は少ないので更新が楽しみです！ (2022年4月23日 22時) (レス) id: d97bc805fa (このIDを非表示/違反報告)
ユーリ(プロフ) - なっちゃんさん» コメントありがとうございます！これからもよろしくお願いしますね！！ (2022年3月28日 0時) (レス) id: 53b3cc7ad6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ユーリ | 作成日時：2022年2月26日 3時
