遊郭物語 -新都編- 伍 (ページ10)

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＿ページ10

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すぐに顔を上げたと思ったら

私をそっと抱きしめて

…泣きそうな声で、囁く。

「テヨン、ちょっ…」

「…言ってください、貴女も」

「っ…」

「俺が、足りないって。俺が欲しいって…」

「…、」

「最後に寝たの、いつですか。なんで他の… ……俺を避けて、他の男のところに行くんですか」

「そんな…」

「貴女に触れていないと、手が震えて、息が出来ない」

「…俺を失いたくないなら、今ここで俺に貴女を抱かせてください」

…あまりの衝撃に、また心臓が止まりそうだった。

いつから、一体彼は

そんなことを言うようになったんだろう。

私を見つめる瞳が、
あんなことを言ったくせに不安に揺れている。

テヨンが

…私が、どうしても彼を失いたくないなんて

そんな本心を悟ってること知らなかった。

私はどんな顔をしてただろう。

テヨンは次第に、その顔色をくすませて
申し訳なさそうに俯くと、そのまま私に頭を下げた。

「…ごめんなさい。無礼を言いました」

「行きましょう、楼主様」

…噛み合わない二つの意志。

不快極まりない。

そんなことをするような性でもないのに、何かに当たりたくてもどかしい。

今日のテヨンは、私をどうかさせる。

…それでも、あたしの男だ。

……テヨンの心は、あたしのものだ。

絶対、だれにも渡さないし

あたしから離してたまるものか。

私の先を行こうとする、そんな彼の挙動に腹が立つ。

腕を強く引けば、
自分から仕掛けたくせに彼は驚いた顔をした。

その純粋さが、いつもは愛おしいのに

今はただ、煩わしくてしょうがない。

あなたを失うなんて、冗談じゃない。

あんたは永遠にあたしのものだ。

テヨンの腕を、もっと強く引き寄せて

そのほのかに色づいた唇を奪って

テヨンの身体の核が、私のそれと強く引き寄せ合うように

そうまるで磁石だ

貝殻合わせのもう一枚だ

割れた心臓の、片方だ

足がもつれると、そのたびにテヨンの腕が私を支えて

布団の上に、どちらからともなく倒れ込んで

視界の隅に見えた、窓の外の景色の中では
太陽が沈もうとしていた。

開店一時間前の鐘が、階下から遠く聞こえてくる。

私は目を瞑って、

テヨンの柔らかな髪を

この裸の胸の中で、くしゃっと掴んだ。

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