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TY side
「さっきの舞の練習も、見事だった。最近ゆっくりテヨンが舞う姿を見れていなかったから、見入っちゃったの」
「本当ですか？……やったぁ、嬉しい…(笑)」
「当日見れないのが残念ね。決まりだからしょうがないけど」
「じゃあ後日にでも、Aさんのために舞います」
「おやめなさい。お客様にお見せする舞は、お客様のためだけに舞うこと。私のことを頭の片隅にでも置いたら、花魁として失格よ」
「そうは言いますけど… 俺も、分かってますけど…」
ぴしゃりと言い放つ声色は、いつもの楼主様だ。
Aさんって、いつ何時も
楼主としての自覚と責任を持っている。
それを堅物だと揶揄する人も居るし、
俺みたいに 素直に尊敬してる人も居る。
遊郭は狭い世界だ。
とは言え、人間模様は渦巻いている。
当然、身近に居ながらも Aさんを良く思わない人が一定数居るのも事実。
Aさんは覚悟を決め、あらゆる物をその身分のために捨て去ったけれど
結局は 一人の女性であることに変わりない。
…辛いこと、苦しいこと
全部ぐっと堪えて 耐えて 生きている。
「ふふ、それならいいの」
もし、もしも
そんなAさんが心安らげる時間を
こんな俺でも 作り出せられるのなら
俺はAさんを笑わせるためなら
なんでもしたいし、出来ると 思ってる。
「…俺の舞、見たいですか」
「いつでも見たいに決まってるじゃない。男娼の成長は常に見届けていたいから」
「俺の舞です。そんな他の男と一緒にしないで」
「ふふ、分かってるわよ、分かってるから(笑)」
「…あの、いいこと思いついたんです。今度、Aさんだけを想って舞を創ります。だから、見て」
「あら、そんなことしてくれるの。ふふっ、じゃあ楽しみにしてるわね」
「はい…！」
心なしか、Aさんの声色が明るくなった気がする。
俺はそんな彼女の様子を思い浮かべるだけでも、胸がいっぱいだ。
…昔は こんな風に
ただ純粋に、Aさんの笑顔が見たくて
そうだ
先代の楼主様にお願いして、
わざわざ
他にも色々なこと、してたな。
俺が何かを見せるたび、Aさんは喜んだり 笑ったり 驚いたりしてくれた。
あの頃はただ 真っ直ぐに
Aさんを 想い続けていた。
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作者名：如月
| 作成日時：2021年1月11日 10時
