遊郭物語 -新都編- 伍 (ページ25)

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花魁、ともなると
テヨンと関わるお客様はほんの一部に限られる。

豪商の娘、貴族の娘
一晩で何十両もするテヨンの身体は
彼女たちのようなお金持ちにしか売りには出されない。

しかも、何度も此処へ通わなければ
テヨンとは巡り逢うことすら出来ない。

そんな、深い間柄の方からの求婚だ。

テヨンが、ふふっと力なく微笑んで
私の首筋に唇を滑らせ、

紅い花びらがまだ重なって咲いている鎖骨へ

…強く肌を吸い、新たな一枚をそこへ加える。

「…貴女と俺で、その話を断るのも何回目になるんでしょうね」

「さあ。いちいち数えていても全くの無駄よ」

「お客様が第一、の精神じゃないんですか」

「あら、あたしのもとを離れたいって言うの？」

「…ほんの冗談ですよ。…ごめんなさい」

「断ってるんじゃないわ。…最初から、渡す気なんて無い」

「…Aさん、」

テヨンの方を振り向けば

その大きな瞳の中に、あたしが住んでるのがわかる

…私を、不安そうに見つめている。

完全無欠の美貌の中にある、
退廃的な子供らしさ。

その頬に、手を当てたら

あたしの心の中からも何かが溢れてきそうだ

…ねえ、

ある日いきなり

風船のように弾けて

落ち葉のように舞い上がって

そんなふうに、

いなくなったりなんかしないよね

「…解ってるでしょ、テヨン」

彼に言い聞かせるように

だけどほんとは、あたしに言い聞かせるように

心を落ち着かせる魔法の言葉？…ううん

そんなに明るいものじゃない

心を落ち着かせる、鎮痛剤。

それとも少し違うかな

心を落ち着かせる、麻薬。

そうだ、これだ。

そんな、麻薬と成り果てた言葉を

私は私に聞かせるように

テヨンに語りかける。

「あんたは、娼夫なんかじゃない」

「…あたしの、男よ」

「……そうでしょ…？」

「…ねえ……、」

お願いだから、

そうって言ってよ。

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