第四場 ページ21
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TY side
…決して褪せない、冬の消炭色だ。
久々に目にしたその着物、その色が全く変わっていないことに、安心して 息を吐いた。
帯や帯留め、髪飾りもきちんと揃っている。
今度、試しに着てみなくちゃ。
今一度それらをしっかりと畳み、
箪笥に仕舞い込んで 鍵をかけた。
履き物はどうしようか。
高下駄、新しく作ってもらおうかな。
所持している下駄を見ても、鼻緒の色が どうもあの着物には合わないように思えた。
俺は羽織りを手に取ると、草履を履き、戸を開ける。
階段を降りて外に出た瞬間、
ひゅるりと音を立てて 秋風が舞い込んできた。
…もう、こんなに冷える季節なのか。
商人や他の遊郭の男娼で賑わう花街。
通りを歩いていると、すれ違う人々が俺を目に留めて
…ひそひそ話す声が、そこかしこから聞こえてくる。
「あれがあそこの楼の花魁の、テヨンさんか…」
「…美しい…溜め息でちゃう…」
「うわっ、びっくりした！こ、こんなところ、普通に歩くんだ…」
「本当に綺麗な顔だな… 男の俺でも見惚れてしまう…」
歩く時は、必ず姿勢を正して
自分の中に一本の糸を通しなさい
どんな人に見られても、何を言われても
まるで何も聴こえていないかのように
前だけを見据えて、歩きなさい
自分は気高い身なのだと 自覚を持って
絶対に他を寄せつけない
そんな雰囲気を 演出しなさい
…そんな、あのひとの教えを心に刻んでいる。
俺はただ前だけを見据え、贔屓にしている仕立て屋へ入った。
店主がすぐそこに居たので、深く膝を折る。
挨拶の仕方は、これしか知らない。
「これはこれは、テヨンさん。いらっしゃいませ、今日はどんな御用かな」
「こんにちは。実は今度、花魁道中を催すことになって… 高下駄を仕立てて頂きたいんです」
事情を説明し、生地を持ってきてもらうまで
店内を見て回ることにした。
時に、楼内で目にするお客様とすれ違う。
此処は各楼の外とは言え、娼夫に“空き時間”など無い。まして俺は、あの遊郭の看板だ。
顔馴染みの方、一人一人に ご挨拶した。
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作者名：如月
| 作成日時：2021年1月11日 10時
