酷 ページ29
腕を引っ張られ続けてようやく帰ってきた大阪の伸介さんの家は、何もなくなっていて、大きなブランケットが3枚と、日曜雑貨が詰まった段ボールが淡々と積んであるだけだった。
殺風景以下。
「とりあえずお風呂入れてあるから、ちゃっちゃと入り」
「はい」
しんどい、ただそれしか思えない頭と身体に鞭を打ってお風呂を上がれば、入れ替わりで伸介さんがお風呂に向かう。
伸介さんもいない、自分だけしかいない空間は、どうやら未来の私を具現化したようで、思わずゾッとした。
伸介さんも侑も、きっと私の周りからいなくなるかもしれない。いつまでも揺れる自分に愛想を尽かすかもしれない。
それにもう、侑は......侑を選べなかった私の事なんて、汚点でしかないだろう。
.
「ほれ、おいで」
私の隣に座り、両手を広げた伸介さん。もちろん私も遠慮なしに飛び込む。
今は誰かにすがっていなければ、やってられなかった。
「ほんまにすまんかった、あんな事言ってすまんかった。ただでさえアイツがいた状況であんな酷な事、ほんまにすまんかった」
だけど、どうしてもAを引き留めたかったねん。アイツのもとに返してあげたくなかったんや。
そう言って信介さんは私の肩を涙で濡らした。
「ズルいですよね私、どっちも好きなんです。二人共手放したくないなんて、わがままだって分かってるんですけど」
「俺はそれでもいい、Aが俺の事好きだって思って、俺を選んだんなら、それでいい」
「良くないです!!今日きっぱり決めなあかんかったのに、結局選べなくて。ほんまに私はクズすぎて...」
「もう喋らんでええ」
そういい信介さんは私の唇を塞いだ。口先で交わった信介さんの涙はしょっぱくて、やけに熱かった。
.
「おはようさん、目腫れとるで」
「おはよう...ございます。信介さんもですよ」
二人で洗面台に濡れタオルを当てて並ぶ。
今日は信介さんのおばあちゃんにご挨拶に行かなければならないため、こんな姿ではいけない。
しかし、いくら化粧で隠そうと、疲れた顔はそのままだった。
そう言えば私、稲荷崎に来たのは初めてじゃないな、なんて今更だが、片手に収まるほどだったが訪れたことがあった。
駅からバスを乗り継げば、目の前には北という表札。
緊張は頂点を達していた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 196人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
狼 - 三角関係ってやつですねぇ…ヤバイですねぇいいですねぇ←(さいてi (2020年3月20日 21時) (
レス) id: 58dc9d80b9 (このIDを非表示/違反報告)
本郷ゆい(プロフ) - ありがとうございます！！自分の中でもいかに北さんが喜ぶハッピーエンドというのが難題でした！最初から読んでいただけてるなんて、本当に光栄です。よろしければ少ないですが、小話と次作も読んでいただけると嬉しいです！！ (2020年3月7日 23時) (レス) id: 36ee06747a (このIDを非表示/違反報告)
本郷ゆい(プロフ) - 紫乃さん» ありがとうございます、めちゃくちゃうれしいです。当方本当に語彙がないので、国語辞書を片手に執筆したかいがありました！ (2020年3月7日 23時) (レス) id: 36ee06747a (このIDを非表示/違反報告)
本郷ゆい(プロフ) - 瑞稀さん» コメントありがとうございます。どうしてもここまで北さんについて深く掘り下げると、肩を持ちたくなりますよね！！小話では北さんに救われるよう書くので、楽しんでいただけたらと思います。 (2020年3月7日 23時) (レス) id: 36ee06747a (このIDを非表示/違反報告)
猫太郎丸 - 完結おめでとうございます！！！初投稿されたときからずっと見てた作品で毎回ムズきゅんされました…！侑くんも北さんも報われてほしくてでも作者さんの完結方法はとてもスッキリして今とても爽やかです！（？）改めまして本当におめでとうございます！ (2020年3月7日 22時) (レス) id: 3db7769967 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：本郷ゆい | 作者ホームページ：http://nanos.jp/honngoyui/
作成日時：2019年11月11日 22時
