価 ページ15
お互い、忙しく仕事に追われた、と思っていたらもう週末。
まだ結婚の話は身内で収まっているものの、今週一週間は社長交代やら、我が身の昇格の話で騒がしかった。
朝、目覚ましが鳴る前に目が覚めて起きれば、そこには珍しく北さんがぐっすり。
この家に来て未だなお、北さんより早く起きれたことはなかった。珍しい事も起きるようだ。
私は北さんを起こさぬよう、静かにベッドから抜け出し、朝食の準備をする。
米を研ぎ、炊く。その間に紅鮭を焼いて、緑茶を淹れる。野菜室の中には青紫蘇があったため、鶏肉と梅を挟み焼く。
北さんがお料理上手な男性なのは今週の同居生活で見に染みたが、私だって料理は得意な方だ。
こうなったらヤケクソでも、夫婦らしくしてやろうではないか。
「北さん、もうそろそろ起きんと、お寝坊さんですよ」
「今日は仕事はないし、まだ7時やで」
「OK,Google。今日の予定は?」
"今日の予定は、北さんとデートです。"
ほな、起きんとあかん。と、まるでずっと前から起きてました、とでも言いたそうな顔で洗面所に向かった北さん。
聞いてみるに紅鮭が焼けるいい匂いで起きた、だとか。
私が起こしに来て、デートの事を覚えていたか、試していたらしい。
「お待たせしまし。」
「いや、大して待っとらんで。....Aさんはよう赤が似合うなぁ。」
「ほんまですか?ありがとうございます」
小さなキャリーケースの中に唯一押し込んでいた、外着のニットワンピ。所謂、レッドワインという色で、去年の秋に侑がプレゼントしてくれた一着だった。
キャリーケースから出してすぐのそれは、昔の家の匂いがする。いや、侑の匂いがした。
さっぱりとしてて、どこか柑橘を感じる青春の匂い。私の最後の恋の匂い。洗ってしまえば消えてしまうような、脆く儚い匂い。
「こっちの方も似合うんちゃうか」
「いや、北さん何着買うんですか、一体」
「だってAさん、ガラガラに私服今着とるのしか入ってないんやろ。そんなん困るやん」
「でもお財布に厳しいので着回しで5セットはあれば十分です」
「俺が払うからええ」
えええええええ。いや、良くないやろ。全然良くないやろ。
なんで普通に、なんの断りもなく、北さんのお財布から払うことになっていたのだろうか。
というか北さん。ガラガラではなく、キャリーケースです。
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狼 - 三角関係ってやつですねぇ…ヤバイですねぇいいですねぇ←(さいてi (2020年3月20日 21時) (レス) id: 58dc9d80b9 (このIDを非表示/違反報告)
本郷ゆい(プロフ) - ありがとうございます!!自分の中でもいかに北さんが喜ぶハッピーエンドというのが難題でした!最初から読んでいただけてるなんて、本当に光栄です。よろしければ少ないですが、小話と次作も読んでいただけると嬉しいです!! (2020年3月7日 23時) (レス) id: 36ee06747a (このIDを非表示/違反報告)
本郷ゆい(プロフ) - 紫乃さん» ありがとうございます、めちゃくちゃうれしいです。当方本当に語彙がないので、国語辞書を片手に執筆したかいがありました! (2020年3月7日 23時) (レス) id: 36ee06747a (このIDを非表示/違反報告)
本郷ゆい(プロフ) - 瑞稀さん» コメントありがとうございます。どうしてもここまで北さんについて深く掘り下げると、肩を持ちたくなりますよね!!小話では北さんに救われるよう書くので、楽しんでいただけたらと思います。 (2020年3月7日 23時) (レス) id: 36ee06747a (このIDを非表示/違反報告)
猫太郎丸 - 完結おめでとうございます!!!初投稿されたときからずっと見てた作品で毎回ムズきゅんされました…!侑くんも北さんも報われてほしくてでも作者さんの完結方法はとてもスッキリして今とても爽やかです!(?)改めまして本当におめでとうございます! (2020年3月7日 22時) (レス) id: 3db7769967 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:本郷ゆい | 作者ホームページ:http://nanos.jp/honngoyui/
作成日時:2019年11月11日 22時