曖昧な関係だと思っていたのは私だけでした【五条悟】【七海建人】

第16話 ページ16

第16話


思えば、私から悟を呼び出すのは
初めてだった


いつだって私達の関係は
悟の掌の上

悟の気分の赴くまま


その不自然なバランスを
初めて崩したんだ


私の突然の呼び出しを
悟は驚く様子も特になく

「今晩家に行く」

とあっさり受け入れた


.
.
.



五条「お邪魔しまーす」



仕事を終えて家で待っていると
悟のその声とともに玄関の扉が開いた


迎えに行き、
コーヒーを出しながらリビングに通した



今朝私が出した答えは


七海さんと向き合う為に

七海さんの誠実な気持ちに応える為に


…悟との曖昧な関係を終わりにすることだった


悟とずるずると関係を持ったまま
…気持ちも引きずったまま


七海さんの横に立つわけにはいかなかった



あれからずっとこの時間まで考え抜いて

どう話すかは、もう決めてある




A「ごめん…いきなり、呼び出して…」



五条「んーん。それは平気」



A「うん…」



五条「で、話って？
別れ話なら聞かないよ」



A「…えっ……」



五条「…え……マジなんだ」



思わぬ言葉に驚いて悟を見ると

悟は長い睫毛を伏せて悲しげに瞳を揺らしている


…初めて見るそんな表情が想定外で、私は戸惑った



どうして今、そんな顔するの…




五条「…話してよ、ちゃんと」



目を逸らして俯く悟の声に

私は

予め決めていた言葉を紡ごうと、声を振り絞る



A「別れ話っていうか……

もう、悟と会うのを…やめたくて…」



五条「……理由は？」



A「彼氏がね…できるかもしれないの」



五条「…は？」



A「だからこの曖昧な関係はもう、」



五条「曖昧？
さっきから言ってる意味が分かんないんだけど」



A「え…？だって私達は…セ…」



五条「僕がAの彼氏なんじゃないの？」



A「……はい？」



悟が、私の彼氏……？



意味が分からない、と悟の顔を見ると

悟の方は
もっと意味が分からないようで
少しきょとん、とした後

一度ため息をつくと

「やっぱりな」と悲しげに笑って上を見上げた


なにがやっぱりなの…？


悟が私の彼氏ってどういうこと？


付き合って欲しいという言葉も
もはや好きという言葉さえ
言って貰ったことはない


それなのに…

どういうこと…？


一向に事態が把握できない私に

悟は半ば諦めたように口を開いた

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