曖昧な関係だと思っていたのは私だけでした【五条悟】【七海建人】

第15話 ページ15

第15話


七海さんの告白を受けて10日が経った



あの時…

ただ涙を流すだけで
どうにも言葉を出せない私に

七海さんは優しく頭を撫でて
「返事を急ぐ必要はありません」
とだけ言って、微笑んでくれた


…それから1週間も何も言えずにいるのは
何もその言葉に甘えている訳じゃない


本当に、どうしたらいいのか

自分のことなのに

自分で答えが出せないでいた


その理由なんて、とっくに分かっている筈なのに
なかなか向き合えないまま…



七海さんとは
それから連絡を取っていない


考える時間を私に与えてくれているのだと思う


だけど
毎朝、あのパン屋では変わらず顔を合わせていて

そこで一言二言、
他愛ない言葉を交わしている


10日という時間は、決して短くはない


待っている立場である七海さんからしたら
私よりもうんと長く感じているに違いない


それでも

パン屋で顔を合わせた時には
普段と変わらず接してくれて

詰めるように連絡をしてくるわけでもない


…そんな人を、これ以上待たせてはいけない


今日こそ、
今日こそ、と
何度も思って


結局動けぬまま迎えた11日目の朝


いつものように例のパン屋に寄って
少し見回したけれど


…七海さんの姿がない



時計を確認してみても
いつも会う時間帯で間違いないなのに、

どうにも、彼がいない



どくん、と不吉になる胸を押さえつつ
カスクートの売っている棚に向かうと



カスクートも、今日は品切れていた



空っぽのその陳列棚を見た途端



先ほどまで押さえられていた胸の音が
嫌なくらい頭の中に響き渡る



別に知らなかったわけじゃない

分からなかったわけじゃない



いつ、どんな時も、当たり前に

同じように微笑んでくれる人が

どれほど大切か、なんて



いくつものドラマや色んな曲の歌詞の中で
何度も聞いた筈で



それでも

こうして自分が直面してみないと
分からないなんて

あまりにも愚かだ



私を見て目を細めて笑う姿も
私を包む優しい香りも


当たり前の存在なんかじゃない


私が大切にしなければいけないものが
やっと分かった気がする



カスクートの前で固まっていた私は
いよいよ覚悟を決めてパン屋を出ると

その勢いのまま
スマホを取り出して電話をかけた



A「…もしもし。悟…？

話したいことがあるの」

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