曖昧な関係だと思っていたのは私だけでした【五条悟】【七海建人】

第11話 ページ11

第11話


海に行ってから
私と七海さんの距離は急速に近付いたように思う


七海さんは紛れもなく
私にとって大切な存在になっていた


美味しそうなものを見かけたら
一緒に食べに行きたいと思うし

おかしな夢を見たら
すぐに報告したくなるし

七海さんから決まった時間に必ず来る連絡や
女性として"正当に"扱って貰える度に
荒んだ心が癒されていくのが分かる

七海さんがいなくなったら、
私は私で無くなってしまう気さえする


対して

…どんな偶然か、悟は最近私の家に来ていない


最後に会ってから
1ヶ月は経っている


そんな中でも連絡だけは
相変わらず遅いペースながら取っていた

時折確認すると
私の送ったものは律儀に未読のままにされている

悟の未読は"後でちゃんと返すよ"の意味だと
私は知っている


限りなくゼロに近い細いこの繋がりは
いつ途切れてもおかしくないほど脆い


だからこそ連絡を無視することで
自らそれを断ち切るのは簡単で。


そうしてしまえればきっと全て丸く収まるけれど
どうにもその勇気がない

距離が空いてこれでよかったと思うのに
この微かな繋がりに
今の自分がギリギリ支えられているような気もする


…最近の私は
こうして悟のことを考えるより

七海さんのことを考えることに
時間を割くようにしていた


年は一つしか変わらないけれど
"大人の男性"の代名詞のような
彼の隣を歩くのに相応しくなりたくて

会社の規定ギリギリまで
明るくしていた髪を暗く染め直し、

服装も
今までは膝丈のワンピースなんかを
好んでいたけれど

ロングスカートにブラウスを合わせたり
ワイドパンツにパンプスを履いてみたり、

落ち着いた大人の女性に見えるように努力した


実際周りからは
綺麗になった、大人っぽくなったと
言われることが増えたし

七海さんも
髪型を変えたり、
新しい服を着て会いに行くと
必ず気付いて褒めてくれるので

私の毎日は、今までにないほど充実していた



…悲しいほど、満たされていた


悟がいなくても
時間は同じように過ぎていく

悟がいなくても
私はいたって健康に毎日を過ごす

七海さんの横で笑って
楽しい時間を過ごしている



それの何が悪い？

どうしてそれが、こんなに虚しい？

いつまでもまとわりつく罪悪感が
誰に対するものなのか
どうして分からない？


本当は……



「おかえり、A」



悩み抜いた頭で家に帰り着くと
聞き慣れた声が私を迎えた

第12話→←第10話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す