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如「今、会社は休職してる。こっちでできそうな仕事が見つかったら…」
「ダメだ。お前、もう28だぞ?今キャリアを捨てるなんて、絶対にダメだ。」
如「捨てる、とかじゃないよ。俺は海斗と、父さんと、ここで生きていきたいの。」
ふぅ、と息を吐いて、父さんが腕組みをする。男手一つで俺たちを育ててくれた父さんの顔には、いつの間にか深いしわが刻まれていた。
「…海斗のために、お前が犠牲になることはないだろう。」
絞り出すような声に、俺は思わず「は?」と聞き返してしまった。無意識に、足が前へ進む。
如「犠牲ってなに?父さん、まさか海斗のこと諦めてるわけじゃないよね?若い人は脳が回復する可能性も高いって、病院の先生も言ってた。俺は、海斗が回復できるようにやれることをやりたいの。」
気づいたときには、つかみ合いになりそうなくらいの距離まで父さんに詰めよっていた。何か言おうと、父さんも険しい表情で口を開く。
その時だった。
―ご、ごっ
開きかけた父さんの口が、動きを止める。慌てて振り向くと、ベッドの上の海斗が目を開いてこっちを見ていた。
くるくると海斗の黒目が動く。苦しそうに開いた口と、忙しなく上下する薄い胸。まずい、急がなきゃ。
如「…海斗の前で、していい話じゃなかったね。」
吸引器を手に取りながら、小さくつぶやく。視界の端で、父さんが静かに部屋を出ていくのが見えた。
宮「っか、はぁ…」
吸引の瞬間、やっぱり海斗は辛そうな表情を見せる。でも、海斗にとっては生きるために欠かせない時間。俺が目をそむけるわけにはいかない。
なのに、
如「っ…!」
どうしてだろう。今は、何度拭っても視界がにじんでしまう。どうしようもなくなって、吸引器を手入れする手を止めた。
“兄ちゃんって、ほんと涙もろいよね。”
あきれたような弟の声が聞こえるのを心のどこかで期待しながら、俺は唇をかんで俯いた。
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おさと(プロフ) - る - るさん» る-る様、リクエストありがとうございます!またリクエストいただけたこと、いつもお読みいただけていること、本当に嬉しいです😭長くお待たせしてしまうかもしれませんが、しっかり書かせていただきます、! (2022年8月27日 17時) (レス) id: ede36f8a86 (このIDを非表示/違反報告)
おさと(プロフ) - そらさん» そら様、コメントありがとうございます!またリクエストをいただけるなんて、本当に嬉しいです😭続編、書かせていただけるのが今から楽しみです!またまたお待たせしてしまいますが、気長にお待ちいただけますと幸いに存じます! (2022年8月27日 17時) (レス) id: ede36f8a86 (このIDを非表示/違反報告)
る - る(プロフ) - いつも本当に楽しく読ませて頂いています; ; リクエストなのですが、リアル設定で松倉くんが仕事に疲れ塞ぎ込んでしまっていってしまい段々と仕事にも来なくなりそこで全メンバーが松倉君を助けるお話が読みたいです。分かりにくくて申し訳ないです.... (2022年8月27日 13時) (レス) id: 6d6ceb074c (このIDを非表示/違反報告)
そら - →病気は悪くなるばかり。弱っていく青を見て桃は自信をなくす。そんな姿を見て白も昔を思い出し、桃だからできることがあると励ます。 (2022年8月25日 20時) (レス) id: e020254286 (このIDを非表示/違反報告)
そら - たくさんリクエストある中恐縮ですが、またまたリクエストさせていただいてもよろしいですか。「夢のかたち」の続編で、研修医の桃さんが大きな病気と闘う青の担当に。頑張る青の姿を子どもの頃の自分と重ねてなんとか治してあげたいと奮闘するけど→ (2022年8月25日 20時) (レス) id: e020254286 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おさと | 作成日時:2022年8月10日 19時