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二月、学校前にて ページ9

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三年生はこの時期から自由登校になる。学校に行く予定もなくなるといよいよ暇になって仕方ない。


部屋でごろごろと寝転がりながら動画を観たり 漫画を読んだりしてみたものの、受験期だったときあれほど求めていた娯楽もとうとう尽きてしまった。


母親からお遣いを頼まれ久しぶりに出た外。冷えた風が肌に突き刺さるのを感じながら、背中を丸めて足を早めた。




私の自宅は高校のすぐ近くにある。校門の前を通り過ぎようとしたところで男子生徒に呼び止められた。









「おお、内田。なんや最近よう会うな」


『あれ、北くん。…学校行ってたの?』


「おん、ちょっと先生に用事があってな、勉強ついでに」









センター試験が終わっても彼らの受験はまだまだ続く。


ついこの間会ったセンター組の友人はげっそりしていたが 北くんは受験の疲れなど微塵も感じられない。いつも通り、背筋がしゃきっとして凛とした雰囲気を纏っていた。









『…あ、そうだ。これあげる』


「ん?」









いつも鞄に忍ばせているお気に入りのチョコレート。


頑張っている彼への労いも込めて二つ包みを手渡すと、北くんは目をぱちぱちとさせる。


風邪予防のために付けているのであろうマスク越しでも 彼の表情の変化が見て取れた。はて、北くんはこんなに表情の変わる人だったっけか。









『…どうしたの?』


「……いや、前も同じもんもろたなあ 思て」









数ヶ月前、勉強を教えてくれた彼に手渡したのもまた同じチョコレートだった。


こいついつも同じチョコ持ってんな、食い意地張ってんなって思われたらどうしよ。


たぶん北くんはそんな人じゃないんだけど、好きな人のことになるとどんなことでも不安対象になってしまうから困る。









『…ごめん、嫌だった?』


「そんなことあらへんよ、俺 これ好きやってん。…けど、ほんまにええの?」


『いいよ、うちにもあるから』


「そうなんか、…なら有難く頂くわ」









目を細め、柔らかく笑んだ北くん。大事そうにチョコレートの包みを鞄に仕舞う様子に少し違和感を感じつつ、近所のスーパーへ向かうべくその場で北くんと別れた。




その日のスーパーはやけにチョコレート売り場が充実していた。


それもそのはず、帰ってカレンダーを見てみれば その日は二月十四日だったのである。









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はやみこ - 北さん…かっこいい!とても素敵なお話でした。 (2020年5月24日 12時) (レス) id: d7eec8a8e8 (このIDを非表示/違反報告)
あゆ(プロフ) - えええ、大耳くん???それは意味深だよぉぉ。君も素敵な男やなぁ。これぞ甘酸っぱいお話ですね。誰かの恋の裏には言い出せもしない失恋が隠れてるのかな何て勝手に想像してしまいました。 (2020年4月30日 23時) (レス) id: 8c1d6118a6 (このIDを非表示/違反報告)
氷水(プロフ) - うわあああ…たまたま見つけて読んでしまいましたが、とても素敵でした…素敵な北くんのお話をありがとう… (2020年3月26日 1時) (レス) id: b2d8d7cb3b (このIDを非表示/違反報告)
an20080321(プロフ) - もうさいっっっこうです!!素晴らしい作品ありがとうございました、、!! (2020年3月12日 21時) (レス) id: ee660bdd63 (このIDを非表示/違反報告)
月埜(プロフ) - ありすさん» ありすさんはじめまして、ありがとうございます...!!この作品で少しでも多くの方に北くんをもっと好きになって下さったら嬉しい限りです。コメントありがとうございました!! (2020年2月25日 22時) (レス) id: d1ca7a883a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:月埜 | 作成日時:2020年2月14日 22時

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