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その瞬間、大ちゃんが振り返った。
少し風が吹いて、大ちゃんの長めの髪が靡いた。
前髪から覗く目は、少し離れていてもキラキラしているのが分かる。
息を飲むような、美しさ。
年齢より幼くも大人っぽくも見えるその姿。
たしかにそこにいてこっちを見ているのに、瞬きをしたら消えてしまいそうな。
無我夢中でシャッターを切った。
俺を呼んでいるのか、大ちゃんの口は少し動いている。
それすらも美しくて、その瞬間をカメラに収めることに必死だった。
「…裕翔、大丈夫？」
俺の意識がこちらに戻ってきたのは、大ちゃんの俺を呼ぶ声が聞こえたからだった。
気づくと大ちゃんは俺のすぐ前に立っていて、服の裾を控えめに掴みながらこちらを見上げていた。
一心不乱にシャッターをきる俺を見て不安になったんだろうか。
「…あ、ごめん」
思わず謝ると、ううん、全然いいんだけど、と首をふる。
その様子はさっきまでとまた違っていた。
今度は、たしかに隣にいるし、消えないことが分かる。
裕翔…？とまた俺を呼ぶ声に、思い切ってお願いをした。
「ね、撮らせてもらってもいい？」
「おれを……？」
「うん」
お願い、と頼むと、断れない大ちゃん。
「…いいけど、裕翔はおれでいいの…？」
「大ちゃんがいいから頼んでるんだよ」
「なら、いいけど……」
しぶしぶながら承諾してくれた大ちゃんの腕を引いて、こっち、と誘導して。
顔もっと近づけて、とか、少ししゃがんで、とか次々と指示を出す俺に、大ちゃんは文句1つ言わずつきあってくれた。
日が赤くなってきたので帰ることになった。
歩きながら、そういえば俺のお願い聞いもらってばっかりだったな、と思って、
「ごめんね、俺ばっかりで」
そう謝ると、
「ううん、おれも楽しかったから」
とほんとにそう思っていますと言わんばかりの表情で笑う大ちゃん。
あ、今のも撮りたかったな。
さっきまでのカメラマン根性が抜けてないらしい。
考えを遮るように、
「あそこね、季節によって咲く花が違うんだよ」
と言うと、
「…じゃあ、また連れてってね」
って笑うから、今度は、
あっっ、絶対シャッターチャンスだったのに！！！
って心の底から後悔した。
でも、またって言ったし！！
チャンスは何回もある！！
早く次の季節にならないかなって、かなり楽しみになった。
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作者名：まり | 作成日時：2022年10月30日 15時
