“ありがとう”を 貴女に…【短編集】vol.3

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朝から、ここかしこで人だまりができていて、教室に行けば、誰が誰に告白しただの、誰と誰が付き合うことになっただの、ウワサ話で持ちきり

教室内には、安田くんの姿はまだなくて、始業のチャイムギリギリで教室に飛び込んできたと思ったら、いくつもの可愛らしい箱を抱えていた


はぁ…と息を吐き、席に着く安田くんに詰め寄るひとりの男子




「おい、ヤスッ。お前、引っ越すって本当かよ」

その男子の発した言葉に、クラスメイトは静まり返り


「………うん」

安田くんのその返事に、教室内は騒然となった



………はずなのに、私には何が起きてるのか理解できなくて、みんなが何を言ってるのかも、彼が何と答えてるのかも全く耳に入ってこなくて

目の前の光景が、グニャリと歪んで見える


「ごめん。私、気分悪いから保健室 行ってくる」

近くにいた友達に声をかけ、教室を出た



保健室にお世話になるなんて、小学生の時に転んで怪我した時以来だ

ベッドに横になり目を瞑っても、もちろん眠れなくて、1時間ほどジッとしていたけれど、考えるのはさっきのことばかり


「ありがとうございました」

保健室を後にして、携帯を取り出した



『今日は気分が悪いので、早退します。荷物、教室に置いたままなので、ヨシ兄 持ってきてくれる？』

メールを送り、手ぶらで校門を出た




今朝は、ちょっと緊張しながら、でも ワクワクもしながら歩いた 学校までの道

まさか、こんな気持ちで帰るなんて、思ってもいなかった



それから3日間、私は学校を欠席

俗に言う“ズル休み”なんて、生まれて初めてのこと


3日目の夕方

「A〜、入るぞ〜？」

ヨシ兄が、ドアをノックながら声をかけてくれたけど、それに返事をする気力もない

返事をしない私を心配してか、ソッとドアを開けるヨシ兄



「お前、なにやってんの？」



ベッドにゴロゴロする私に対し、いつになく険しい顔、静かな口調でこう問われたら、何と言葉を返していいのか、わからない

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