“ありがとう”を 貴女に…【短編集】vol.3

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テスト期間が始まったり、部活があったりで、一学期中に安田くんと約束できたのは、ほんの数回


「来週から夏休みなんて、早いなぁ」


「ホントだね。長い夏休みだけど、始まればあっという間なんだろうね」

予定が合う日は、あの本屋さんで待ち合わせをするのがいつしかお決まりになり


「小池さんは、夏休み 予定あるん？」


「特にないかな？お盆に父親の実家に行くくらい。安田くんは？」


「僕もお盆に帰省くらいで、特に何もないよ？」

今日もふたりでオレンジジュース飲みながら、まったりお喋り



「だったら コレ、どうかな？」

昨日の夜、本棚の前で悩み抜いて選んだ5冊の本


「夏休みの暇つぶしになれば、と思って…」

紙袋に入った5冊を差し出せば


「ふふっ…」

と笑う 安田くん


「何？どうした？」


「やっ。考えてること、一緒やったなぁ、思って」



安田くんの鞄の中からも、何冊かの本が出てきた

「僕のオススメの6冊。かぶってんのないとええけど…」

渡された本の題名を確認すると


「あっ、あった」


「えっ？マジで？」


「うん。これ、私も持って来た」


「ホンマや…でも、僕 もう一回 読み返したい 思っててん。借りてもええかな？」


「本当？私も読み返したいと思ってた」

それから、また小一時間ほど読書談義に花が咲いて

“夏休み明け、お互い感想を言い合おう”

そう約束をして、その日は別れた



毎年、夏休みはダラダラと過ごすのに、今年は暇さえあれば、安田くんに借りた本を手に取った


カブって選んだ本

同じ内容なのに、安田くんに借りたものだと思うと、ちょっぴり新鮮に感じて

彼に借りた本を読んでる時は、あの本屋さんで、ふたり向かい合わせで本を読んでいるような錯覚に陥った



6冊の本と共に過ごした夏休みを終えて、最初の水曜日

放課後あの本屋さんに行くはずだったのに、私が向かっているのは、音楽室


『A、お兄ちゃんまた忘れてったみたいだから、届けてあげて？』

今朝、母に頼まれた兄の忘れ物を片手に怒り心頭


何回忘れれば気がすむの？

これなきゃ、文化祭の練習なんか出来ないでしょーが



ブツブツ言いながら、ギターの音がする音楽室のドアに手をかけた

ふうっとひと息ついて、思い切りドアを開けて


「ヨシ兄っ、忘れ物。これなかったら、練習 出来ないんでしょ！」




大きな声で叫んだけれど、目の前にいたのは、ヨシ兄とは全くの別人だった

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