“ありがとう”を 貴女に…【短編集】vol.3

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Aが転院したことを知って、婦長さんに新しい病院を聞いても、“北海道の病院”としか教えてもらわれへんかった

今考えたら俺、Aのオカンに嫌われとったもんな…


それからすぐこの世界に入って、がむしゃらに働いて、気付いたら10年以上たっとった

やっと、少しずつやけどテレビに出る機会も増えて、余裕ができてきた時、無性にAに会いたなって


あの手この手を使い、探し当てた Aの居所

あの病院の近くの商店街で、パン屋やっとるって



何度も行こうと思ったけど、なかなか機会とタイミングに恵まれず…いや、訪ねる勇気が無かったんかもな



そんな時に、降って湧いたような街ブラのロケの話。それもあの町で、相方はヒナ

こんなチャンス、2度と来ぉへん思って、ヒナに全部話して、それとなく偶然を装ってAの店に行くつもりやった

帽子 店に忘れたんも、パンダのぬいぐるみも、手紙も、全て計画を立てた上でのこと

あっ、狡いとか言わんとってな？
感動の再会に、ちょっとしたスパイスを…てだけの事やから



期待と不安を抱えてくぐった 店のドア

俺んこと見て、目 丸くするから気付いたんかと思ったけど、そうではなくて…

A曰く“名前が違うから、そっくりさんだと思ってた”やて

ファンの間では、俺が芸名なのは周知の事実やけど、普段テレビを観ぃひんAは、知らんかったみたい


俺ん家来てはライブDVD観まくって、今も“きみくんのパンダ、ホント可愛い〜”とご満悦

この曲 歌うたびに、Aんこと思い出してた…ってのは、口が裂けても言われへんけどな


いつも頭の中にAの事はあった

けど、正直言うて、20年間 A一筋…って訳やなかった

華やかな世界、たくさんの出会い

お付き合いさせてもろた女性も何人かおった


でも、思い出すのは あん時のAの笑顔で

やっぱり俺には、Aだけやな…


そう思った




いつになるかなんて確約は出来ひんけど、絶対 お前の夢、叶えたるからな？


もちろん そん時は、俺の隣で……





「A〜？」




「うん？どうした？」




俺との思い出、忘れずにおってくれて







「ありがとう」







end

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