１６８ ページ19
・
出航から数時間、宝島の姿形も当の昔に見えなくなり、私は海をぼーっと眺めていた。
「もう２時間ほどでつくよ。」
『羽京くん。』
彼の両手にはマグカップが２つ。その一つを私に渡した。
「ありがとう」と短く礼を言えば羽京くんは私の隣に立ち海を眺めた。
『休憩？』
「うん、ちょっとだけね。」
マグカップの中のお茶をこぼさないように伸びをした羽京くん。
ずっと座りっぱだったもんね、お疲れ様です。
『・・・昨日はありがとうね。』
「何の話？」
『とぼけるんだ？』
「あはは。」
笑いながら帽子を目深にかぶり直した羽京くん。
肩で弱く体当たりした。そのまま彼に体を密着させた。
『私って優しい人間じゃないみたい。』
「なんで？」
『・・・イバラを倒す時、ちょっとでも後悔すると思ったの・・・。千空くんが石化させる直前まで怖気づくと思った。』
「イバラは今までの悪行の報いを受けた・・・でも死んだわけじゃないよ。」
『わかってるけど・・・わかってるんだけどね・・・。』
マグカップを持つ手に力を加えた。
あの時、オオアラシを追いかけていた時に抱いたイバラへの感情を思い出す。今でも腹の奥がぐつぐつと煮えて仕方がない。
『・・・死んじゃえって思っちゃった。』
「・・・。」
『司くんや羽京くん達のこと、もう怒れないね。』
「聖はそう思っただけで、直接手は下していないじゃないか・・・。人間は醜い生き物なんだ、聖の持ったその感情は人として当然のものなんだよ。」
『羽京くんも？』
「僕だって嫌いな人間の一人や二人いるからね。幻滅した？」
『するわけないよ。』
よかった、と彼は微笑んだ。
海を眺めていれば、うっすらと本土の影が見えてきた。
イバラを石化させたことは後悔していない。
ただ、命の価値を理解していると思っていた自分が「死ね」と思った事にショックを受けてしまったのだ。
「むしろ聖は今まで善人過ぎたんだよ。命に関わる立場だったのもあるんだろうけどさ、思うことは罪じゃない。聖はキレイな人間だよ。
それにいつか宝島の人がイバラを許す、かはわからないけど、石化を解いてあげるかもしれないだろ？」
『・・・うん、ありがとう。ちょっとだけ立ち直れた、やっぱり羽京くんはいい人ね。』
「惚れ直した？」
『あはは。』
「そこはうんって言ってよ。」
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 296人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「Dr.STONE」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
まっちゃ(プロフ) - コメント失礼します！ネタバレになってしまうので内容は書けませんが、番外編、とても面白いです！これからも弥さんの無理のならない範囲で、更新頑張ってください！影ながらも応援しています！ (2021年4月18日 1時) (
レス) id: 064c02c015 (このIDを非表示/違反報告)
弥(プロフ) - わわわわわさん» 申し訳ありません。番外編のリクエストは受けつけていないんです。また番外編を書く機会があればぜひ書かせていただきます。 (2021年4月17日 22時) (レス) id: 28d3fee7a9 (このIDを非表示/違反報告)
わわわわわ - 番外編のリクエストです。耳攻めされたと羽京がドS化したお願いします。 (2021年4月17日 22時) (レス) id: 9c9d4f1707 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
