episode38 ページ40
私が泉を好きになったのは、まだKnightsではなく「チェス」だったときのころ。
もともとアイドルが好きで夢ノ咲のドリフェスにはよく足を運んでいたのだけれど、当時のそれは「アイドル」とお世辞にもいえないくらいに酷い有様だった。
誰も、ファンを見ていない。
ファンサがないのはもちろん、踊りにも歌にも喋りにも熱意がない。
適当にだらだらとステージの上で時間をつぶしているだけ。
何のためにお金を払ってここにいるんだろう、と何度も思った。
今から4年前、「流星隊」と「チェス」は大所帯で、だからこそそのグズグズっぷりは見るに堪えなかった。
ステージには大勢立っているのに、何も伝わらない。
満たされない。
次の公演こそは、次こそは、と期待して通い続けていたけれど、途中で心が折れた。
こんなの私が好きなアイドルじゃない、心からそう思った。
死んだ魚のような目をした男たちがただ舞台の上でくるくる動いて、ぼそぼそとトークともいえない独り言をいい、蚊の鳴くような声で淡々と歌う。
これで彼らに収入が入ると思うと怒りさえ湧いた。
当時の私は中学生で、なけなしのお小遣いをここにはたいて本当に馬鹿らしいな、と思った。
高校に入ってバイトを始めて、これで最後にしようと決めてまた夢ノ咲に足を運んだ。
これが、泉との出会いだった。
当時の流星隊は、今の姿からは想像できないくらいに完全に腐りきっていて、その日は見に行かなかった。
ただ、ユニットのコンセプト的に気に入ってはいたチェスを見に行った。
どうやら新一年生のお披露目会のようで、ステージの上にははじめましての人ばかりだった。
新人が頑張ってくれれば、チェスに希望があるんじゃないか、そう思ってはいたけれど、結果は期待外れとなった。
悪い先輩の影響をしっかりと受けているのだろう、今までのチェスとなんら変わっていなかった。
あきらめて帰ろうとしたとき、
『ちょっと、まだ終わってないんだけど〜?』
舞台上で、私を引き留める声があった。
いや、私に向けたわけではないのかもしれない。ほかにも帰ろうとしている人は大勢いたから。
はっとして振り返ると、舞台袖からひとりひょっこり顔を出した灰色の髪の子がいた。
「ちょ、セナ! まだ出番じゃないぞ! あとマイク入ってる!」とオレンジの子も飛び出してきた。
今思えば泉をレオが止める光景って、ものすごくレアだし、意外だ。
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咲愛(プロフ) - ツキさん» コメントありがとうございます!始まった頃から読んでいただけているとは、大変うれしいです!続きは本日中に公開出来たらと思ってますので、ぜひぜひ今後ともよろしくお願いします! (2023年2月22日 16時) (レス) id: 8b89f62398 (このIDを非表示/違反報告)
ツキ(プロフ) - この作品が始まった頃から楽しく読ませて頂いてます!毎日更新が楽しみで素敵な作品に出会えたなと思いました!続き楽しみに待ってます! (2023年2月21日 22時) (レス) @page50 id: 56454ebf31 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:咲愛 | 作成日時:2023年1月27日 12時