初雪の夜に(ymin) ページ50
駅を降りたその瞬間、空の色が
いつもと違う事に気が付いた。
冴えた空気は確かに真冬のそれなのに、
一面がどんよりと白んでいる。
見上げた俺の元に降り立った冷たい真綿は、
触れる間もなく溶けてしっとりと頬を濡らした。
水分を多分に含んだの今年最初の冬の便り。
「さむっ、」
制服の上からぐるぐる巻いたマフラーに
顔を埋め、ポケットに手を突っ込んだまま
夜道に踏み出す。
卒業後はいのちゃんの元で働く事を正式に公
言してから授業終わりは大抵バイト漬けの日
々を送っている。
少しでも役に立てる様になりたい、社会勉強
の意を含みつつそれは焦げ付きそうな胸の内
を紛らわす手段でもあった。
どんなに粘って未成年の俺が働けるギリギリ
までシフトに入っても長い夜をやり過ごすに
はまだまだ足りない。
想いが双方向に通じ合ったあの夜以降もギシ
ギシ軋む天井と向き合う日々は続いていた。
薮ちゃんは色々と手を尽くしてくれたけど全
てを清算するにはやはりそれなりの時間が掛
かる。
いのちゃんのお客様は上客で、少なからず薮
ちゃんの仕事上も影響力を持っているのだ。
最後まで仕事を投げ出さずこれ迄の自分を
受け入れるいのちゃんの覚悟と強さ。
俺もまた目を背ける事はせず、向き合い続けて
きたのだけれど、こんなに胸が揺らぐのだから
まだまだ子供だ。
“その時“を待つ日々はとても
長く感じられた。
吐く息が白い。
今夜は自分の足音しか聞こえない。
いつも通り賑わい出した駅前通りを抜け、
暫く歩けば徒歩5分の自宅が見えてくる。
玄関に灯る明かり、古びた白壁、今日も
変わらず俺を迎えてくれる大切な場所。
そして、
「……ただいま、」
この家に暮らす大切なルール。
玄関扉に手を掛けて帰宅の声を口にした。
「お帰りなさい、涼介」
目の前にはシャツにニットを羽織ったいの
ちゃんが立っていて、柔らかく微笑みながら
こちらへ向け両手を伸ばしてくれていた。
いつもなら夜の仕事の準備をしている時間。
俺の大切ないのちゃんが
「……い、のちゃん？」
戸惑いながらも目の前の光景が示す答え
に身体が震え、心が胸が一杯になる。
「涼介、待っててくれてありがとう。
これからは朝まで一緒に眠ってくれる？」
伸ばされた腕を引き寄せて力一杯抱き締めた。
「…うん。でも今日は朝まで寝かせてあ
げられないかも」
いのちゃんが仕事を辞めた夜、
俺達の新しい日々の始まり。 終
終わり
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ぴよ(プロフ) - あいとさん» あいとさん、ありがとうございます( ´∀｀)凄く久しぶりに二人に想いを馳せてみました。私もここ迄辿り着く過程を思うと万感の思いです。幸せに過ごしてほしいなぁ♪ (2018年6月25日 12時) (
レス) id: 20d979f9fd (このIDを非表示/違反報告)
あいと(プロフ) - ぴよさん！ろくでもない夜にファンの私にはとても嬉しいお話でした！この日までよく頑張ったね二人…、いのちゃんこれからは大好きな人にだけ甘やかしてもらうんだよ…となぜか親心…（笑）素敵なお話ありがとうございました！ (2018年6月24日 7時) (レス) id: 6689a85a28 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - にゃーごさん» にゃーごさんこちらにもありがとうごさいます。このお話は当然完璧なフィクションなのですが、その中でも心の動きがなるべく自然に繋がる様にそれぞれの気持ちを想像して書きました。同じ様に感じて貰えて嬉しいです( ´∀｀)妄想は最高ですね 笑 (2017年4月28日 22時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
にゃーご - ぴよさん こんにちは。私がぴよさんに夢中になった作品は実はこの作品でした。あの子は実はこんな気持ちじゃないかな？なんて妄想が広がった時に胸にトンと降りてきてもう、ぴよさんワースドから抜け出せません。 (2017年4月28日 9時) (レス) id: a963f855a1 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - 綺更さん» コメありがとうごさいます。最後まで読んで下さってとても嬉しいです。私も書きながらもどかしく、皆を幸せにしてあげれるのか不安になったりもしたのですが、無事完結出来てホッとしています。涙ぐんで頂けたの事で感激です！また面白いお話をお届け出来る様頑張ります (2017年1月14日 3時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
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