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俺は、薮ちゃんに代わり学生服に
身を包んだ二人の姿を思い描いてみる。

薮ちゃんといのちゃん。
誰もいない放課後の教室、差し込む夕陽を
背景にふたりだけで話をする。
肩を寄せ合いくすくす笑えば、沈んだ心がふ
わりと軽くなった。

そこでしか分かちあえない思いがある。
それは、いつかの俺と知念の姿にぴたりと
重なる様だった。


「……俺達はさ、とっくに戻れないところ
まで流されてたんだ。

それなのに、まだ戻れるんじゃないかって
あの頃にすがってる。
諦めが悪いのだけがそのまんま。」



切なげに伏せられた睫毛が俯く薮ちゃんにそ
っと影を落とした。



「“昼の仕事”も“夜の仕事”も、伊野尾を
支えてるのは、俺だって自負が捨てきれな
くて。

“ここ以外”でって伊野尾が望むのも、
月曜の昼は、必ず俺の元に戻ってくる
のも、俺が特別だからなんだって。

俺は、“お客さま”とは違うって…」


この部屋でいのちゃんを抱くのは、
“お客さま”だけ。
相応の対価を払ってめくるめく夜を手に入れる。
但し、快楽のほかを望んではいけない。

もしそれを望むのなら、決して二階へ上がっ
てはならないのだ。



「……伊野尾が来ないなんて初めてだった。
いくら待っても来ないから、不安になって
いてもたってもいられなくて…、


それなのに、ふらふら奥から出てきたと
思ったら、


“涼介が帰って来ないから”だとさ…… 」



いのちゃん、待っててくれたんだね。
今日だけじゃない、4年間いのちゃんは
いつでも俺を待っていてくれた。



「……………嫉妬したよ。

伊野尾が待ってたのは、涼介、お前だけ。
必要なのは、俺じゃないんだ。

頭の中がどろどろに溶けて、行き場を無
くして、気が付いたら無理矢理あいつを
二階へ引き摺り上げてた。」

そこまで話して薮ちゃんは、黙り込んだ。



“ここじゃ、嫌だ”


いのちゃんは、何を拒んだのだろうか。

薮ちゃんと同じように、まだ戻れると
あの頃に手を伸ばしたのだろうか。

やけに素直ないのちゃんの寝息だけが、すぅ
すぅと静寂を埋めるように流れていた。

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設定タグ:Hey!Say!JUMP , BL   
作品ジャンル:恋愛
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ぴよ(プロフ) - あいとさん» あいとさん、ありがとうございます( ´∀`)凄く久しぶりに二人に想いを馳せてみました。私もここ迄辿り着く過程を思うと万感の思いです。幸せに過ごしてほしいなぁ♪ (2018年6月25日 12時) (レス) id: 20d979f9fd (このIDを非表示/違反報告)
あいと(プロフ) - ぴよさん!ろくでもない夜にファンの私にはとても嬉しいお話でした!この日までよく頑張ったね二人…、いのちゃんこれからは大好きな人にだけ甘やかしてもらうんだよ…となぜか親心…(笑)素敵なお話ありがとうございました! (2018年6月24日 7時) (レス) id: 6689a85a28 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - にゃーごさん» にゃーごさんこちらにもありがとうごさいます。このお話は当然完璧なフィクションなのですが、その中でも心の動きがなるべく自然に繋がる様にそれぞれの気持ちを想像して書きました。同じ様に感じて貰えて嬉しいです( ´∀`)妄想は最高ですね 笑 (2017年4月28日 22時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
にゃーご - ぴよさん こんにちは。私がぴよさんに夢中になった作品は実はこの作品でした。あの子は実はこんな気持ちじゃないかな?なんて妄想が広がった時に胸にトンと降りてきてもう、ぴよさんワースドから抜け出せません。 (2017年4月28日 9時) (レス) id: a963f855a1 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - 綺更さん» コメありがとうごさいます。最後まで読んで下さってとても嬉しいです。私も書きながらもどかしく、皆を幸せにしてあげれるのか不安になったりもしたのですが、無事完結出来てホッとしています。涙ぐんで頂けたの事で感激です!また面白いお話をお届け出来る様頑張ります (2017年1月14日 3時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぴよ | 作者ホームページ:http  
作成日時:2016年8月30日 20時

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