ろくでもない夜に (ymin)

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「今時は、打ち上げとかないの？
若い子は、淡白だねぇ。」

まだ26歳のいのちゃんが、年寄りみたいな
口調で揶揄する。
茶色くてふわふわのヘアスタイル、揃った
前髪、ぱっちり二重、あどけなく開いた唇、
全てのパーツが実年齢より随分と幼く見せて
いた。


「…………はい。お見舞い。」


無造作に取り出した茶色の紙袋。
親友の知念から密かに購入した。
いのちゃんは、ゴソゴソと中身を探って飾り
っけのない白いチューブを取り出した。

「どこにでも使えるって。中も外も。

昨日の相手、質が悪い奴だったでしょ。」


知念の家は代々繁華街に店を構える老舗薬局
で、そういった品揃えも豊富だ。
いのちゃんは、素直に“ありがと”と受け取っ
て、まだ赤く痕の残る手首にそれを塗りつけた。

「これ高いでしょ？」

「親友価額だからヘーキ。」

いのちゃんがしてくれてる事に比べたらどう
って事ない。

「無理しなくてもいいよ。

俺の身体は、あれくらいじゃびくとも
しません。」

薄っぺらな胸を叩きながら威張っていのちゃ
んが笑った。


表の顔は、在宅の建築士。
もちろんちゃんと仕事はしてる。

でも、この古い家には表玄関とは別に裏口が
あってそこから入ってくるのは、いのちゃん
目当ての“お客さま”。
高い金を払ってこのきれいな身体を一晩自分
のものにする。

俺の部屋の真上がいのちゃんの仕事場。
天井の軋む音はその晩の客を反映する。
この4年間でろくでもない夜を何度数えた
ことだろう。

でも、俺にだってそんなろくでもない奴の
血が流れているのだから文句は言えない。
本当は、この顔も声も髪の毛一本一本まで
が厭わしくて仕方ない。

けど……

「涼介、あの人に似てきたねぇ。」

そう言って嬉しそうに俺を見つめるから
何にも言えずにここにいる。

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