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『無限城とか、モブである佐々木は何それって感じなんですけど』
桜色の着物を着た、16歳程の少女が、とある場所に立っていた。
暗く日の当たらないその場所は、"あの"鬼舞辻無惨が通っていた場所だと言う。
『彼岸花がどうこうって仰ってましたが、結局あれ、何だったんです?佐々木花とか詳しくないので分からず終いなんですが』
彼岸花を四、五本地面に置いて、少女は続ける。
『青い彼岸花は見つからなかったので、この彼岸花は代わりです。…ねえ、無惨様。人って、生きてれば誰かの悪で、誰かの正義だって話、したじゃないですか』
俯いている少女の表情は見えない。
『無惨様は、鬼を嫌う鬼殺隊の人達からすれば、悪だったかも知れませんけど。…無惨様の部下の皆さんの中には、無惨様に凄く凄く感謝してる人もいたんじゃないかなーと、佐々木は思うんです』
少女が顔をあげる。
少女と、この場所でよく話していた鬼舞辻無惨と言う男は、彼女を確かに好ましく思っていたのだ。
周りからすれば、確かに愛おしいと思っているような顔をしておきながら、彼は少女に「好き」の一言すらくれてやりはしなかった。
『佐々木、無惨様のこと、好きでした。
見つめられる度にゾクゾクする紅い目とか、柔らかそうな髪とか、ごく稀に見せてくれる笑顔とか…あ、全部好きなので挙げたらキリがないですね』
寂しさを紛らわせるように、少女が笑う。
『無惨様にとって、佐々木は駒…未満ですよね、すみません佐々木です。佐々木、今では鬼になっても良かったかも知れないって思います……無惨様の駒になら、なりたいなって思ったんです』
年頃の恋する乙女のように、少女が焦がれているような笑みを見せる。
稀に見せてくれる笑顔。
投げられる問い掛け。
優しく温かい体温。
『佐々木、結局言えませんでしたね。無惨様のこと、好きだってこと。まあ、言っても一方通行だと思うので寧ろ良かったのかもしれませんが…あ、佐々木です』
もう会えないと分かっているからこそ、こんなにも胸が痛い。
『はあ……無惨様と出会うじゃありませんでした、佐々木です』
雨が降りだした。
けれど、空は憎いほどに蒼穹で、降りだした雨は、器用に少女の頬だけを濡らしていく。
『あーもう……正直、ジンクスであって欲しかった佐々木です!』
少女の慟哭が、いつまでも響いていた。
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作者ホームページ:なし 作成日時:2020年11月3日 12時