68 ページ23
すぐに離されると思ったAの手は硬直して動かない。
指先からAの温度が伝わって、唐突に血液が沸騰するような感覚に陥る。
このまま指を絡めて、逃げなければ手を握って引っ張って抱き寄せてキスしてそして、って流れが脳裏をよぎった。
いや、駄目だ。
流されてまた嫌々ながらも拒めなくて気づいたら俺の腕の中で、仕方なく抱かれました、みたいなことは。
あの夜一度だけだから許されたんだ。
あれは事故みたいなもの、お酒に酔ってて、彼氏に浮気されてちょっとヤケになっててさびしくて寒くて体温を分け合っただけだったって。
一度だけならAの中で『無かったこと』にできたとしても、2回目はさすがにそうはいかない。
けど何か少しのきっかけがあればその理性と衝動とを隔てている壁なんか薄紙一枚をのように薄くて脆い。
Aが少し動くだけで。少し口を開くだけで。少しこっちを見るだけで。
爪を立てたらすぐ壊れるほどの脆い感情の壁に意味なんてなくなる。
もう言ってしまおうか。
友情なんか壊れる覚悟で伝えてしまおうか。
『もう友達とは思えない』って。
口を開こうとしたとき、テーブルの上のスマホがブーン、と、震えてAの手がビクリと離れた。
均衡が、崩れた。
離れてしまった。
繋ぎ止められなかった指を目で追う。
「櫻井くん、電話だよ」
「ああ」
なんでこんなときに？
学生時代からの友人になんの罪もないけど、お前邪魔すんなよって言いたくなる。
いや、ありがとう、なのか？
友情を守ってくれてありがとうって？
この程度でこの破壊願望。
これから一晩、Aと過ごせるのか俺？
無理だ。
俺は必ず、無理矢理奪おうとする。
そしてAはそんな俺を受け入れる。
だって大切な『オトモダチ』だから。
「櫻井くん？」
「俺やっぱ駄目だわ」
「何が？」
「Aはここにいていいよ、俺ちょっと出かけてくる、明日の朝に帰る」
「え、どこいくの？」
「どこ行こうかな、女の家とか？」
女の家、とか口からでまかせが出てきたのはヤキモチ焼いて欲しかったから？Aが嫉妬するわけないのに。俺のバカ。
「え……どうして？」
「……」
「あ。まって、じゃあ、私が帰る」
「何言ってんの？」
「え、だって……」
「家に帰ったら圭太と会うだろ？」
「お母さんに別れたって言うから大丈……」
「仲直りしなさいって言われて入ってきたらどうすんだよ」
「櫻井くんに関係ない」
「いいから、ここにいろって」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2563人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みい(プロフ) - 素敵なお話をありがとうございます。翔くん視点のお話も、とっても大好きです。他の作品も読ませていただいていますが、そちらも楽しみです！1ファンとして、応援しています。 (2021年8月23日 3時) (
レス) id: d3369a3b66 (このIDを非表示/違反報告)
すりおろし梨。(プロフ) - ありがとうございます。 凄く良かった。また 次回作 楽しみにしてます(^ ^) (2021年5月24日 9時) (レス) id: 2a65575bc9 (このIDを非表示/違反報告)
すりおろし梨。(プロフ) - 大野さんや にのが、やっとか。て思ったのホントその通り過ぎて。あの日すぐに指輪買いに行ったのも彼女は要らない急がないって言うてもホントは凄く嬉しいはずやし 翔くんもそんな彼女を見るの幸せやったやろなぁー て ニヤニヤして読み終わりました ありがとう。 (2021年5月24日 9時) (レス) id: 2a65575bc9 (このIDを非表示/違反報告)
すりおろし梨。(プロフ) - 彼女視点と翔くん視点。Iページづつ 同時に一気に読みました。あちこち2人の行き違いで泣きそうになり 後半切なすぎてもどかし過ぎて やっぱり切なすぎて鼻水垂らしながら読み切りました。何だこの2人 面倒いわ(>_<)やっとかよ(^_^) (2021年5月24日 9時) (レス) id: 2a65575bc9 (このIDを非表示/違反報告)
にゃん(プロフ) - 完結お疲れ様でした。と、櫻井君バージョンありがとうございます。すっごくスッキリしました。まだまだ作品を書いて頂けるようでとても楽しみです(*´∀｀) (2021年3月26日 0時) (レス) id: 96f199fab2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2021年3月2日 7時
