面倒な麗しさ ページ32
「周りは冗談のつもりでも本人がいじめられてて辛いと思ったらそれはもういじめだってことは知ってるよね？」
櫻井さんが子どもたちの目をじっと見て言う。
「……」
「笑ってるから大丈夫、怒らないから平気だ、嫌なら逃げるはず……そう思ってるかもしれない。けどそうじゃない」
「……うん」
「例えば、遊びで鉛筆を折った。階段で友達の背中を押してみる。漫画やゲームを勝手に借りて返さない」
「……」
「器物破損罪。暴行傷害罪。窃盗罪。これらは全て罪になる。子供だから学校内だからといって許されることではない」
櫻井さんの声に熱が入った。
眼鏡の少年の助けて、という心の声が櫻井さんにハッキリと聞こえたんだろう。
私はつい。
他のことに目を向けて気づかなかった。
眼鏡の少年は泣きそうだ。
もうやめて、って声が聴こえた。
「いいや、やめない。言わせてもらう」
「……え？」
櫻井さんが周りの子をじいっと見た。
「……は？……肝試しと言って……箒か何かで扉を開かないように閉じ込めて……？置いて帰るつもりだった？」
「……」
背の高い子が一歩後ずさる。
「怖いよ、助けて、って泣く姿を……スマホで撮ってやろうと思っていた？」
「……え？何で……」
背の高い子が狼狽する。
ぽっちゃりした少年が背の高い子を見た。
日に焼けた背の低い子は櫻井さんを恐怖に満ちた目で見上げる。
「この世で最も怖いものは霊なんかじゃない、人の悪意だ。更に怖いのがその悪意に罪悪感を抱かない人間だ」
「……」
「俺は罪悪感を抱かずに罪をおかす人を社会から排除する仕事をしている」
「……」
え、俺ら、殺される？
みたいな心の声が聞こえてきた。
くす、と笑ったらそこにいた子全員が私を見た。
……え？何この人たち。殺人鬼？
殺されるんちゃう？
「殺人鬼って！」
……え？え？まさか心、読まれてへんやんな？
「よくわかったね、ぜーんぶ、聞こえてるよ？」
「脅しちゃだめだよー！」
相葉さんがあはは！って笑う。
「中でゆっくり話そうか？リュウくん、ユウキくん、マサトくん、ハルヤくん、ミナトくん、レンくん、イツキくん」
子どもたちが恐怖で固まった。
「まだ？」
大野さんと松本さんと二宮さんがぞろぞろと近づいてきた。
子どもたちがもう駄目だ、殺されるって観念してとうとう吹き出す。
「す、すみませんでした！行くよ！」
眼鏡の子が言った。
皆がわー！と叫んで一斉に走り出す。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2018年8月10日 13時
