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おにいちゃんが、腕でぐっと目元を拭って、苦笑いを浮かべる。
「だから、俺……」
「A」
お父さんが怖い声を出した。
「はい」
「和くんとはほんとに何もしてないんだな」
「私はいいよ、って言ったのにおにいちゃん何にもしてくれなかった！」
あはは、っておにいちゃんとお父さんが同じように脱力したみたいに笑った。
ふたりそっくり。
「Aは、いつから和くんのこと好きになったんだ？」
「おにいちゃんがこの家に来てから……？」
「……」
「……」
お父さんとおにいちゃんが目配せをした。
「……なるほど」
おにいちゃんが、泣き出しそうな困ってるような目で私をじっと、見た。
「え？」
「和くんはいつから？」
「Aさんが高1の冬です、2月だった」
「……そっか……」
お父さんが考えるような顔をして私をもう一度見た。
「Aはこの部屋から出て行きなさい、お風呂に入っておいで、和くんと男同士の話がある」
「……」
男同士ってなに。
でも、お父さんはなんだか急に気持ちを立て直したように見えるし、おにいちゃんは突然絶望的な顔をした。
「……はい」
後ろ髪を引かれる思いのままお風呂に向かったら、おばさんが、あら？って言った。
「まだだったの」
「お風呂はまだやめとく、シャワー入ってきます」
「お友達と電話でもしてたの？」
「うん！」
モヤモヤしながら、シャワーのコックを捻って頭からお湯を浴びた。
嫌な予感がする。
とっても嫌な予感。
慌ててシャワーから浴びて、髪は半乾きのまま猛スピードでリビングに行ったら、お父さんは普通にテレビを見てて、おばさんもいる。
おにいちゃんは？
二階に上がってお兄ちゃんの部屋に入ったら、おにいちゃんが荷造りをしていた。
「おにいちゃん……？」
「うん？」
「どこいくの？」
「お父さんに聞いて？かーちゃんには、とりあえず相葉さんちに行くってことにした」
「……」
「ごめんね」
「やだ！」
おにいちゃんの猫背の背中にぎゅうっと抱きついたらおにいちゃんが、わ！って驚いて、私の腕をトントンと叩いた。
「A、約束覚えてる？」
「なんの？」
「忘れちゃった？」
おにちゃんが、あはは、って笑った。
「……」
「手、お大事にね、それと離れて」
冷たい声。
そっと手を解いたら、おにいちゃんがフウ、と溜息を吐いた。
キシ。
床のきしむ音がした。
お父さんが中を伺ってるんだ。
信用されていない。
大声で泣き叫びたくなった。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年5月31日 0時
