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一度食事に行っただけで、手もつないだこともないのに、おじさんのせいで話はとんとん拍子に進んでいく。
「今度の日曜、林のおじさんと一緒に、Aさんのお父さんとお義母さんにご挨拶に伺うことになったから」
「……はあ」
「ごめんね」
川淵さんは申し訳なさそうに謝った。
「正直ちょっと戸惑ってます……私、川淵さんのことまだ何も知らないのに」
「でもさ、お見合いとかで結婚した方がうまくいくって聞いたことない？結婚してから恋愛するんだよ、って」
「……へえ」
「好きな人がいるって言ってたね？」
川淵さんが、にっこり笑ってそう言った。
「……はい」
「その人に勝てるように、頑張っていい？」
嫌だって言えない。
あいまいに笑って返すだけ。
その夜、お父さんからメールが来た。
いつの間に？びっくりした、って。
私だって同じ。いつの間に？ってびっくりしてる。
川淵さんとは、一回だけお食事に行った。
楽しかったけど、それだけ。
それに気づいてるみたいだけど、気にせずゴリゴリくるから、いつか私も情なんかにほだされて、少しは好きになれるんだろうか。
その週の日曜の11時頃、川淵さんの車でおじさんと一緒に久々の実家についた。
なんでこんなことに。
流されて、愛してもない人と結婚して、子供ができて。
そんな人生も、まあ、いいかと思えるくらいに疲れてる。
燃やし尽くした恋心は、灰となって、風に消えていくのを眺めるだけ。
気が重い。
チャイムを鳴らすとインターホンから、お父さんの声がした。
「はい」
「Aだよ」
ガチャリとドアが開いて、お父さんの姿を見たとたん、川淵さんが頭を下げた。
「突然申し訳ありません。川淵と申します、初めまして」
「……ああ、とりあえず、中へ」
お父さんがおじさんと、久しぶりですね、とか話してる。
おばさんが心配そうにこっちをみながらお茶を入れにキッチンへ向かう。
リビングで私もまだ知らない川淵さんの仕事内容とか自己紹介を聞きながら、和気藹々としてる様子はまるで偽物の家族。
居心地が悪くて、早く終われとばかり祈る。
男三人が共通の音楽の趣味で盛り上がってて、おばさんをちらっと見たらおばさんと目が合った。
「……幸せ？」
なんて残酷な質問をするんだろう。
幸せってなんなの。
思われて結婚して何不自由ない暮らしをして、平穏に生きることが幸せなら。
いま、それを掴もうとしているわ。
小さくうなずいた。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年5月31日 0時
