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「どうする？どうしたい？」
おにいちゃんが、そうやって聞いたのに、キスしたから答えられないよ。
「A？」
「もうちょっと、このまま……」
「……」
「これからのこととか、全部忘れて、今だけでいいから」
「……え？」
「もう二度と会えなくなっても後悔しないように、このまま」
おにいちゃんが、小さい声で何言ってんの、って呟いた。
何言ってんの。バカ。バカ。
そう繰り返す。
彼女いるんでしょう？
あと3年の間に何が起こるかもわからない。
おにいちゃんに、もっと好きな人が現れるかもしれないじゃない。
それに、明日、死んじゃうかもしれないのに。
「あと、3年、待てないよ」
「……」
「待たないよ……」
「どういうこと？」
「おにいちゃんのことが好き」
「A？」
「だから、おにいちゃんは、私のことなんて縛られないで、自由に生きてください」
腕からすり抜けて、床に散らばった服をかき集める。
「A……？」
「彼女、来ちゃうかも……帰らなきゃ」
「……あ」
「おにいちゃんには、絶対幸せになってもらわなきゃ」
「……Aはそれでいいの？」
「一生分の幸せ、もう貰ったよ、幸せだったよ、ありがとうおにいちゃん」
「……」
「約束破らせちゃってごめんなさい」
制服に着替えて、髪を整えた。
ほっぺをパシン、と叩いて、気合を入れる。
頑張れ。負けるな私。
「……そんなこと言うなよ……お前の幸せ、こんだけなの？」
「……」
「もっと欲張れって……」
「大学、行かせてもらって、お母さんを守ってくれて、私もくださいなんて、おにいちゃんはきっと言えないよね、それが本音でしょ？」
「……」
「お父さんに、一生頭が上がらない人生、おにいちゃんに背負わせたくないよ」
おにいちゃんが、は、と笑った。
図星だよね。
「だから、待たない」
「……」
「でも、もし……」
ああ、何を言おうとしたの私。
何年後かに、それでも私を好きでいてくれたなら、なんて。
困らせるだけなのに。
「それと、おにいちゃん、私、女子寮がある大学選んだんだよ、知ってた？」
「……え？」
「あの二人に、新婚生活送らせてあげようかな、なんて思って。親孝行でしょ」
「待って……え？」
「さよなら」
おにいちゃんの部屋から飛び出した。
雪が、舞う。
音もなく、ハラハラと。
いつか、この想いも、溶けて消えるかな。
私の命と、どちらが先に消えるだろう。
雪は、静かに、静かに舞い落ちる。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年5月31日 0時
