96 ページ16
「もしもし」
「ああ、やっとつながった。どうした？もう帰った？」
「ごめんね、メグちゃんが具合悪くて……」
「ああ、メグミがいないって田村も探してるよ」
……どうしよう。どうしたらいいんだろう。
「吉沢くん、お願いがあるの」
「ん？」
「吉沢くん、前に一回私を家まで送ってくれたことあったよね、家覚えてる？」
「うん。もちろん覚えてるけど……」
「田村くんを、うちに連れてきてほしいの。30分後くらいに」
「え？そんな体調わるいの、メグミちゃん」
「……うん」
「了解ー。たい焼き買っていくよ！食べたいって言ってたよね」
吉沢くんの明るい声に救われる。
「待ってるね」
「任せろー」
あははって笑いながら電話が切れた。
ふうっと、ため息を吐く。
余計なお世話かもしれないけど、結果がどうであれ、ふたりちゃんと話し合わなきゃ。
自転車のペダルにぐっと踏み込んで、家までダッシュで帰る道。
メグちゃん、もし妊娠してたらどうしよう。
学校、やめちゃうのかな。
田村くんはどうするんだろう。
責任なんてとれないよね。
まだ高校生だし、そんな子供が責任取りますなんて言っても、なんの説得力もない。
どうする気？
働いて二人で子供を育てるの？
高校もろくに卒業していない、大学もでていない、不安しかない未来を前に、子供が子供を育ててほんとにハッピーエンドといえるんだろうか。
責任。
その言葉の重みがどん、と覆いかぶさってくる。
『責任とらせて』
突然、ふと耳に残る、おにいちゃんの声を思い出す。
『責任取るから、どんな手を使っても絶対』
あれは、どんな覚悟で。
涙がつうっと急に流れ落ちた。
左腕の長袖の下に今でも残る、茶色いクレヨンで描いたようなギザギザ模様は。
おにいちゃんのせいだったはずなのに。
どうしてこんな離れ離れになっちゃったんだろう。
もうすぐ冬休み。
また会えない日が来て、そして。
おにいちゃんは年が明けたら、受験があって、そして、卒業する。
永遠に会えない日が来る。
どうして離れてしまったの。
ちがう。
どうして、出会ってしまったの。
どうしてこんな形で出会ったんだろう。
普通に、出会いたかったよ。そしたらきっと。
でもね、私がいいなあ、って羨んだメグちゃんは。
いま、恐怖で震えてるんだ。
何が正解なの。
未来はまだ霧の中で、何にも見えなくて。
クリスマスソングが流れる街を背に、自転車を走らせる。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4723人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年5月31日 0時
