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食器を洗ってくれるおにいちゃんの横で、まとわりいてたら、向こう行きなさいって、ちょっと怒った。

「新婚さんみたいね」
「はあ?馬鹿だね、お前は。のんきでうらやましい」
「ダメなの?」
「いいえ、そのままでいてください」

へんなの。
じーっとみてたら、おにいちゃんが首を傾げた。
「ん?」
「ん」

いきなり、かわいいキスをした。
かあって顔が赤くなった私をみて、おにいちゃんが、笑う。

カーテンは閉めたままにしておこうね、
そうだね、なんてどちらともなく言った。


ねぇ、罰当たっちゃうかな?
当たってもいいかな。
おにいちゃんと一緒なら。

妙にウキウキしたデートの気分で病院に行って、ガーゼを代えて、湿潤治療に切り替えることになった。
そのほうが綺麗に治るって言われた。

やっぱり色素沈着は避けられないけど、ケロイドにはならないで済むみたいで、よかった、って言ったら、おにいちゃんも良かったね、って言ったけど。

ちょっとだけ、悲しい顔をした。
傷、残ったほうがよかったのかな。

おにいちゃんが、病院の帰り、ぽつりと呟いた。

「Aは、……」
「ん?」
「いや、いい……」

おにいちゃんの悲しそうな顔が気になったけど、私はとっても浮かれていて。

すべて、すべて。
ぜーんぶうまく行くと信じていて。

おにいちゃんの、覚悟も知らずに。

外では手、つなげないねぇ?
なんて呑気なことを。

おにいちゃんのリクエストでハンバーグ作って、手伝ってくれて、一緒に食べて。
うまいうまいって言ってくれた。

シャワーを浴びてもいいよ、ってお医者さんからお許しが出たから、シャワーを浴びてリビングに戻る。

「……風呂上り……」
「お先でしたー」
「うん」
「おにいちゃんがお風呂あがるまで待ってるね!」
「……どうして?」
「今日も看病してくれるんでしょ」
「ねえ、ほんと、もう勘弁して……俺死んじゃう」

おにいちゃんが、ものすごく疲れた顔して、お風呂に入るために立ちあがった。

「死んじゃう?」
「馬鹿……」

はああ、って大きなため息を吐いて、私の頭をパシン、ってたたいた。

「いたーい」
「リビングで、朝までゲームするならいいよ」
「やった!横で見る!」
「……マジで」

おにいちゃんが、心底あきれたみたいにがっくり肩を落とした。
私はひたすらはしゃいでいた。

その日の夜が、お兄ちゃんと過ごす最後の夜なんてことも知らないまま。


馬鹿だ。

馬鹿だ、私。

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作者名:よしの | 作者ホームページ:   
作成日時:2016年5月31日 0時

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