82 ページ2
食器を洗ってくれるおにいちゃんの横で、まとわりいてたら、向こう行きなさいって、ちょっと怒った。
「新婚さんみたいね」
「はあ?馬鹿だね、お前は。のんきでうらやましい」
「ダメなの?」
「いいえ、そのままでいてください」
へんなの。
じーっとみてたら、おにいちゃんが首を傾げた。
「ん?」
「ん」
いきなり、かわいいキスをした。
かあって顔が赤くなった私をみて、おにいちゃんが、笑う。
カーテンは閉めたままにしておこうね、
そうだね、なんてどちらともなく言った。
ねぇ、罰当たっちゃうかな?
当たってもいいかな。
おにいちゃんと一緒なら。
妙にウキウキしたデートの気分で病院に行って、ガーゼを代えて、湿潤治療に切り替えることになった。
そのほうが綺麗に治るって言われた。
やっぱり色素沈着は避けられないけど、ケロイドにはならないで済むみたいで、よかった、って言ったら、おにいちゃんも良かったね、って言ったけど。
ちょっとだけ、悲しい顔をした。
傷、残ったほうがよかったのかな。
おにいちゃんが、病院の帰り、ぽつりと呟いた。
「Aは、……」
「ん?」
「いや、いい……」
おにいちゃんの悲しそうな顔が気になったけど、私はとっても浮かれていて。
すべて、すべて。
ぜーんぶうまく行くと信じていて。
おにいちゃんの、覚悟も知らずに。
外では手、つなげないねぇ?
なんて呑気なことを。
おにいちゃんのリクエストでハンバーグ作って、手伝ってくれて、一緒に食べて。
うまいうまいって言ってくれた。
シャワーを浴びてもいいよ、ってお医者さんからお許しが出たから、シャワーを浴びてリビングに戻る。
「……風呂上り……」
「お先でしたー」
「うん」
「おにいちゃんがお風呂あがるまで待ってるね!」
「……どうして?」
「今日も看病してくれるんでしょ」
「ねえ、ほんと、もう勘弁して……俺死んじゃう」
おにいちゃんが、ものすごく疲れた顔して、お風呂に入るために立ちあがった。
「死んじゃう?」
「馬鹿……」
はああ、って大きなため息を吐いて、私の頭をパシン、ってたたいた。
「いたーい」
「リビングで、朝までゲームするならいいよ」
「やった!横で見る!」
「……マジで」
おにいちゃんが、心底あきれたみたいにがっくり肩を落とした。
私はひたすらはしゃいでいた。
その日の夜が、お兄ちゃんと過ごす最後の夜なんてことも知らないまま。
馬鹿だ。
馬鹿だ、私。
4726人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:よしの | 作者ホームページ:
作成日時:2016年5月31日 0時