可愛いは禁止！【SS】 (ページ16)

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送別会の終わりに、課長からの『俺も頑張るお前らも頑張れ』的な一言を頂戴する流れとなる。

新天地に行っても課長らしく頑張ってください的な言葉を送り、ものいりでしょうからと商品券と花束を渡し、店員に無理矢理集合写真を撮らせ、一本締めでお開きとなった。

記憶は定か。
眠くてでろんでろんになってたから。
酔ってたわけではない。決して。多分。

二次会行くぞーって言ってる人の声の方に、フラフラ付いて行く。
途中のタクシー乗り場についたとき、課長がピタリと足を止めた。

「じゃ、みんな今日はありがとう」
「え！帰るんですか？」
周りにいた人たちが課長を取り囲む。
係長は気づかずに歩いていってる。

思わず課長のスーツを引っ張った。
「どうして！」
「明日の昼には日本を発つことになってんの。すぐ挨拶に行かなくちゃならないみたいで。準備とかもあるしね」
「うそ……」
「新課長と交流を深めて来なさい」

課長が微笑んだ。
ぐうっ、と涙がこみ上げる。

仕事をいちから教えてくれた。
困った時はいつも助けてくれた。
出会った時はチーフだったのに、すぐ係長になって課長になって、誇りだった。
私の上司、凄いでしょうって。
仕事できる人でね、明るくて優しくて……

課長がじゃあね、って爽やかに手を振って、タクシーに乗り込む。

一瞬、タクシーを追いかけようとして、誰かに危ない！って手を掴まれた。
タクシーが見えなくなって、涙がポロポロこぼれ落ちた。

皆が、ぞろぞろと二次会のカラオケ店に向かって歩き出す。
課長がいないのに行く理由なんてない。

「Aさん……」
振り返ったら、櫻井くんが私の腕を掴んだまま、険しい顔をして立ってる。

さっきの危ない！って声は櫻井くんだったんだ、怖い声だから気づかなかった。

「……櫻井くんだったんだ、ごめん、行ってね、二次会」
「……」
「皆に置いて行かれちゃうよ？」
「こんなAさんを、残して行けるわけねーだろ」
「いいの、大丈夫……」
「……」
「私のことは気にしないで……」
「あのさぁ！」

櫻井くんが掴んでいた私の腕を、もっと強く握りしめる。

「ん？」
「……やっぱ、いい……送ります、家どこでしたっけ？」
「いいよ！」

「乗るの？どうするの？」
タクシーの運転手さんが聞いてきた。

「乗ります、ほら早く」
櫻井くんが雑に私をタクシーに押し込む。

「どちらまで？」
「ほら、聞かれてるよ！」
櫻井くんが不機嫌そうに言ってきた。