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課長は次、副部長か次長になって、で、部長になって、本部長とかになって、役員になって?
私が会社を辞める時までずっと背中を追いかけ続けることができると思ってたのに。
まさかの、支社長?
思ってもいなかった。
栄転だけど。
希望してたのは知ってたけど。
結婚もしたし、このまま本社にいるもんだと信じてた。
ちょっと泣いて、デスクに戻ったら、最近席が私の斜向かいになった櫻井くんが心配そうに私を見た。
苦笑い。
こんなことで動揺するなんて私は小娘か。
しっかりしろ。
課長の席を眺めてひとつ溜息を吐く。
今の係長が課長になって係長が大野くんになるってことは、私しっかりしなきゃ。
などという若干失礼なことを考えながら書類をまとめていたら、櫻井くんが私をジーッと見つめていることに気づいた。
なんだろう。
櫻井くんがポッケをゴソゴソした。
ん?
そのまま立ち上がって、私の横まで来て書類をぱっと見せてきた。
「ここまで合ってるかチェックしてもらっていいですか?」
「……はい」
「手出して?」
「ん?」
櫻井くんが私の手のひらをグッと掴んだ。
「好きな色は?」
「え?……赤、かな」
「あ、俺も赤好き。行きます!」
ざら、と音がして、櫻井くんが私の手のひらに、マーブルチョコをひと粒出した。
赤!
「あ!赤出た!」
「今日はいいことありますね!」
「マーブル占い?」
思わず笑って櫻井くんの顔を見上げる。
「赤でなかったらどうするつもりだったの?」
「赤が出るように仕込んでたのは内緒です」
櫻井くんがくすくす笑う。
「種明かししたら台無し!」
「だって赤以外全部食っちゃったってこと、すぐバレちゃうから」
櫻井くんがぐふ、って口を手の甲で隠してちょっと笑った。
「私が赤以外を言う可能性あったのに」
「Aさんが赤好きなのはリサーチ済みです」
櫻井くん。
手をそろそろ離してもらえないかな。
なんだか急にドキドキしてきた。
「あの……手……を」
「もしAさんが赤と言わなかったら、じゃあ俺は赤にするから、俺が勝ったらお願いごと聞いて、って言うつもりだったし」
「お願いごと?」
「うん。ひとりで泣かないで」
バレてる。
なんか櫻井くんには色々バレてる。
「余計なことすみません!これやっぱり後でチェックおねがいします!」
そう言ってマーブルチョコを置いていった。
社内ではチーフと呼びなさいって言ったのにな。
……わざとかも。
元気出た。うん。
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作者名:よしの | 作者ホームページ:
作成日時:2016年3月29日 21時