78、逃げるか挑むか ページ8
「なんかやろうとしたら、ほれ住民票だ、印鑑証明だ、保証人だ、なんだかんだってね、この世はなんて身分に縛られてるんだ」
「……あー」
「でも仕方ないよね。相手も、裏切られたくないっていう、恐怖心があるからね、疑ってかかるのは当然。誰も文句言えないくらいのお金をちらつかせるか、社会的地位を証明するかのどちらか」
「……」
「どっちもないでしょ、今のお前ら」
オトナの和が、ふふふって笑った。
「だから、ちゃあんと、勉強しないとダメだぞ。とかおっさんみたいなこと言ってみた」
「……」
「因数分解になんの意味がある、ラ行変格活用になんの意味が！なんて思ってるよね？」
「……うん……」
「将来なんの役にも立たないことを、一生懸命考える。そう、考える力を養うってことが、学ぶ意味なんだよ。考えてもわかんないことの方が、この世の中、多いんだもん」
和が、ちょっと笑った。
「……ああ、うん」
「いっぱい、勉強して、はやくオトナになりなさい、そこの俺」
和が、笑った。
「……でもね、ひとつ言っとくよ。未来はね、変えられない」
和が、はっきり言った。
「Aはね、過去に戻るんだよ、絶対に。捨てられないものが多すぎるんだ、Aには」
「……いや……」
「戻りなさいって、言いに来たの」
「なんで、俺がそれを言うの」
和が、うめいた。
「他に誰が言ってあげられるの」
「……」
「現在のAは言ってなかった？」
オトナの和が、優しい目で、言った。
「何にもいわなかった」
「そっか……あいつ、バカ」
「……」
話を聞いてた皆が、中に、入ろうかって、そっといなくなった。
オトナの和がさっきから、何か言いたいのを我慢してるように見えたんだろう。
「あのね、二人に言っておきたいことがある」
「……」
「俺だったら、もう気付いてるでしょ。和なんか死んじゃえって言われたの、どうやっても避けられなかったみたいに、未来は変えられないって」
「……」
「未来はね、もう決まってんの」
「やだ……」
「けどね、その未来が悲しいって誰が決めたの」
和の顔をちょっと見上げる。
「……」
「ああ、あれでよかったんだって思える日がくるよ、うん」
オトナの和が、笑う。
「そう思って毎日頑張るの、明日は今日の結果、だもん」
「……」
「逃げるか挑むか。字そっくりなのに、意味全然違うよね」
和があはって笑った。
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やっち(プロフ) - おお。当たってました❗よしのさんの小説、色々違うお話を書かれてるので凄い尊敬します。もう感情移入して泣いてますよ。これからも色んなお話を楽しみにしています💕 (2021年10月4日 18時) (
レス) @page33 id: cc7865b69e (このIDを非表示/違反報告)
やっち(プロフ) - こんにちは。予想ですがカズは俳優になって主人公と結婚してると思います。絶対！ (2021年10月4日 16時) (レス) @page4 id: cc7865b69e (このIDを非表示/違反報告)
ちひろ - 高校生の時この作品に出会って、心動かされて24歳になってふいに夢に似たようなシーンが出てきて読み返しました。何度読み返しても素敵な作品。もう一度こんな気持ちにさせてくれてありがとうございます。 (2020年10月2日 21時) (レス) id: 7bf8bcbcd4 (このIDを非表示/違反報告)
みゅう(プロフ) - 大切な、前へ進むための力強いメッセージ。まさに、今のわたしに、また読み返してほしかったんです。将来、オトナになるとき、絶対また読んでほしいと当時おもっていました。消さないで置いていてください。そして改めてこんな面白くてステキな作品ありがとう (2020年2月19日 1時) (レス) id: 61dd42d003 (このIDを非表示/違反報告)
みゅう(プロフ) - キノキミ、No.1で好きな作品です。久しぶりに読み返せました、開放ありがとうございます(涙)そして二宮サン天才外科医役！(；▽；) (2020年2月19日 1時) (レス) id: 61dd42d003 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2015年6月14日 8時
