キノキミ。２の１、 ページ31
ピンポーン。
……来た。
今日、和は仕事で、空き時間に過去の私達に逢いに行くって、言ってた。
モニターを覗く、綺麗なガラス玉のような、高校生の和の目を見て、
なんだか、
なんだか、無性に。
あの、ただ純粋に、
好きで好きで仕方なくて、
あの目に見られるだけで胸が苦しくなった、
あの頃を思い出して、
胸がきゅ、と音を立てた。
「どうぞ」
自分でも驚くくらい冷たい声。
あの頃の私達に会える。
胸が高鳴る。
玄関の前まで来た私達に、できるだけ冷たい声を出した。
「……会いたくないけど、まぁ仕方ないもんね、どうぞ？」
「入っていいの？」
「玄関だけ」
慌てて背を向けて、しゃがみこんだ。
緊張で立ってられない。
足が、ガクガク震える。
わたしは和と違って、演技なんてできないもの。
私、絶対和を見た途端嬉しそうな顔になる。それだけは自信ある。
きっと、大好き！って思うはずで、どう我慢すればいいのかわかんない。
「何がききたいの？」
冷静に、冷静に。
冷たい声になった。
「今、幸せなの？」
「もちろん」
「……天才外科医の奥さんだから？」
高校生の私の、怒りに震える声を聞く。
「彼の仕事なんてなんでもいいの、彼が彼だから好きになったんだよ」
ああ、大事な事を隠してるけど、ホントのコトしか、言えない。
和がなんの仕事してようが、
そんなの関係ないよね、
あなたにも、わかるでしょ？
肩書も何にもない、高校生の和が好きで好きでどうしようもないでしょう？
一緒だよ、Aサン。
「医者と結婚して言うセリフじゃない！」
「そうね」
演じようとすれば、冷たい声になっちゃうよ、どうしても。
「高校の時の気持ち、忘れちゃったの？」
ああ、答え、間違えないようにしなきゃ。
バレるような事を言ったら、一環の終わり。
「……忘れてないよ？」
「じゃあどうして……」
「……」
「どうして、他の人を好きになれるの！」
「今でも好きだよ、ずっとずっと」
「……え？」
「死ぬほど好きだよ、今でも」
「じゃあ、どうして？」
ああ、なんて答えたら。
でも、私とあなたと、決定的な違いがある。
和と別れてもいいやって自暴自棄になったり、
もう無理だって何度も諦めようとした私。
今のあなたには、わからないでしょう。
愛することに、疲れる日も、
乗り越えられない壁が立ち塞がることもある。
私達は乗り越えられた。
けど、あなた達が乗り越えられるかどうかの、
保証はないの。
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やっち(プロフ) - おお。当たってました❗よしのさんの小説、色々違うお話を書かれてるので凄い尊敬します。もう感情移入して泣いてますよ。これからも色んなお話を楽しみにしています💕 (2021年10月4日 18時) (
レス) @page33 id: cc7865b69e (このIDを非表示/違反報告)
やっち(プロフ) - こんにちは。予想ですがカズは俳優になって主人公と結婚してると思います。絶対！ (2021年10月4日 16時) (レス) @page4 id: cc7865b69e (このIDを非表示/違反報告)
ちひろ - 高校生の時この作品に出会って、心動かされて24歳になってふいに夢に似たようなシーンが出てきて読み返しました。何度読み返しても素敵な作品。もう一度こんな気持ちにさせてくれてありがとうございます。 (2020年10月2日 21時) (レス) id: 7bf8bcbcd4 (このIDを非表示/違反報告)
みゅう(プロフ) - 大切な、前へ進むための力強いメッセージ。まさに、今のわたしに、また読み返してほしかったんです。将来、オトナになるとき、絶対また読んでほしいと当時おもっていました。消さないで置いていてください。そして改めてこんな面白くてステキな作品ありがとう (2020年2月19日 1時) (レス) id: 61dd42d003 (このIDを非表示/違反報告)
みゅう(プロフ) - キノキミ、No.1で好きな作品です。久しぶりに読み返せました、開放ありがとうございます(涙)そして二宮サン天才外科医役！(；▽；) (2020年2月19日 1時) (レス) id: 61dd42d003 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2015年6月14日 8時
