30、王様 ページ30
架空の好きな人の話を、好きな人に相談するというなんとも間抜けな状況。
状況は絶望的で、頑張っても、頑張るだけ余計辛くって、
結構、身近な人。同じ学年。
ここまで言って和は、ああ、なるほどね、って言った。
「ん？」
「お前の好きなヤツって誰か分かっちゃったかも」
わかった？そんなバカな！
「……頑張ったら、きっと大丈夫だよ、うん。お前、ほんといいやつだもん」
「かわいい？」
「カワイーカワイー」
「心がこもってない！」
怒ったふりして、んもーとか言いながらフルスコアを見る。
櫻井くんのトロンボーンパート譜作らなきゃ。
in ＣをＢ♭に直すという地道な作業を繰り返してたら、たっぷり間を取って、和が呟いた。
「……Aは可愛いよ」
ぴたり。
手が止まる。
「誰も知らないとこに飛び込んでさ、必死で自分の居場所見つけて、……俺らのせいで、オケ部の子に総シカトみたいな状況に一瞬なったじゃん。でも、負けなくて」
「……」
「いつも明るくて、笑って……泣くのは、相葉さんの前だけにしてるんだよね」
「……え？」
「……想いが届くといいな、応援してるよ、協力はしないけど」
「……あは」
笑った瞬間、涙がぽろぽろって、溢れた。
「……ぅ」
「……いい天気だなぁ……」
バカ。バカバカバカ。
勘違いしてる。違うよ、私が好きなのは。
いえない。
これ言っちゃったら、もう距離開けられちゃう。
ずっと仲良しでいてね。
そういってくれたのに。
苦しいよ。助けて。
私の涙が止まらなくても、全然平気な顔して、トランプをぱらぱらって繰って、一枚引いて、って言った。
「……」
黙って、一枚取る。
「カードはスペードの王様？そいつこの中に入れて。どこでもいいよ」
「うん」
真ん中に、カードを入れる。
「ここ？」
「うん」
「じゃあ、シャッフルしましょうかね」
「うん」
「見てね、ほら、まだ真ん中にいるよね。もうちょっとばらばらにしちゃうと、もうどこにあるかわかんない」
「ふふ」
「でも、Aが呼んだらすぐ来てくれるよ、ほら、呼んでみてよ、私の王さまー！って」
「え？何それー」
「いいから呼んで」
「……和王子ー」
「……ばか」
指をぱちん、って鳴らしたら、一番上に、スペードのキングが。
「すご！」
「台無しじゃん……俺じゃダメでしょ」
「……」
「俺じゃダメなんでしょ、バカ」
和が立ち上がって、音楽室を出て行った。
追いかける勇気は、私にはない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1841人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みゅう(プロフ) - 解放ありがとうございます。涙。だいすきです。。 (2019年10月20日 22時) (
レス) id: 94596ebf5a (このIDを非表示/違反報告)
あやか(プロフ) - この学校に通いたいです。。こんな青春したい。。よしのさんのお話すごいツボです〜 (2016年1月6日 22時) (レス) id: 8994b070b7 (このIDを非表示/違反報告)
RAITO - こんにちは!!RAITOと申します。読ませていただきました。今までとは少し違うテイストの物語でわくわくします《*≧∀≦》青春の甘酸っぱい香り!! (2015年6月27日 11時) (レス) id: 485e47e579 (このIDを非表示/違反報告)
ちょりん(プロフ) - 高校までの6年やってたユーフォが出て浮かれてたら、最近始めたコンバスが！しかも担当が！勿論話も楽しくて(><)何があるのかドキドキしてます！ (2015年6月10日 1時) (携帯から) (レス) id: 83acbf6b6f (このIDを非表示/違反報告)
ぽにょか(プロフ) - 青春、ＳＦ、長編、どんと来〜い♪ 楽しいです。切なさもありつつ、和の避けたかった未来、それでよかったのか和と、分からないまま 和を叱咤激励、主人公ちゃんを応援しながら日々過ごしてます。 (2015年6月9日 23時) (携帯から) (レス) id: 0bab093355 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2015年5月30日 17時
