7.空虚の華 ページ10
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「東雲楼には二人の太夫…女吉原でいえば花魁がおりんす、淀屋の若旦那はどちらを指名しんしたかえ?」
目の前に座っている太夫らしいの二人の男。正直、どちらがあのAという者なのか分からない。どちらも比べて見ても、どうも検討がつかない。1人は、女に全く引けを取らぬ美しさの男。もう1人は、男も魂消る美しさ、さっき亜簾と目が合った男。
どちらも、太夫の位を持っていると言われ納得する美貌だ。
「華永野だ」
すると、先程から黙っていた男が亜簾に目を合わせ、口を開いた。
「ご指名ありがとうござんす。
わっちが華永野でありんす、よろしくお願いしんす。若旦那」
膝の前に手を置き、深々と礼をすると柔らかな笑顔を魅せた。面影は少し感じた。見惚れていたかもしれない。
もう一人の男が、くすりと笑みを溢した。
「わっちは、
そう言い、部屋から出ようとした百合音を亜簾は何かを思い出して引き止めた。
「隣にいる俺の連れの相手をしてくれ」
「連れ、でありんすか。承知しんした」
百合音は薄く笑うと、部屋を去っていった。
そして、亜簾が探し求めていた華永野太夫 Aという者と二人きりになった。百合音が戸をパンッ、と閉める音が響くと同時にAの態度は一変した。
「で、俺と何がしたいんだ」
亜簾は少々驚いた。これが本当のA自身なんだろうか。威圧が尋常ではなかった、まるで客を見下すような。
「俺を覚えているか」
それでも、亜簾は思い切って口にした。Aは考えるような仕草を一つせずに、
「お前なぞ知らん」
すぐに返事をした。そして、そのまま言葉を繋げた。
「俺は今までどれだけ客の相手したと思ってんだ。常連でもない客の顔を覚えるわけがねぇだろ」
煙管を持ちながら、亜簾に何の媚びを売るような行動をせず、冷たくあしらった。亜簾は複雑だった、自分の心に巣食っていた何かが薄れていくようで、消えていくようで、裏切られたようで。そう、あの
だが亜簾はまた、質問をした。
「いつから変わった」
いつから性格が変わったのか、と亜簾は聞いたのだ。Aは質問の言葉足らずにも、流れで何を聞きたいのかわかった。
そして、Aはふ、と鼻で笑った。
「元からこうさ。てめぇは幻を見てたんだよ」
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Ria。(プロフ) - 初めて見たのですが、、ッ好きすぎます。尊すぎます。こんな尊い小説があってもよろしいのでしょうか。ええ、もちろんあってよろしいです。この素晴らしい小説に出会えて良かったです!! (2022年4月29日 18時) (レス) @page46 id: 6d33a476b4 (このIDを非表示/違反報告)
大手裏剣(プロフ) - 藤雲ルアリナさん» あああ!お喜ばれる小説を書けていたようでとても嬉しいです!やる気でますね……頑張りますね! (2020年4月8日 15時) (レス) id: fe109e5f3f (このIDを非表示/違反報告)
藤雲ルアリナ - 世界観、空気、文体、ストーリー、もう何もかも好みです!毎回更新楽しみにしてます! (2020年4月8日 0時) (レス) id: 3165ea2c89 (このIDを非表示/違反報告)
大手裏剣(プロフ) - 氷浦メグさん» ひえぇっありがとうございます泣 これからも暇潰しにでも覗きに来てください… (2020年3月13日 17時) (レス) id: 54569fedb3 (このIDを非表示/違反報告)
氷浦メグ(プロフ) - 初見です。尊いですありがとうございます! (2020年3月13日 13時) (レス) id: 3357bae399 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:愛之助 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/oh19years/
作成日時:2019年2月16日 22時