26.徒花 ページ29
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_かごめかごめ、籠の中の鳥は
_いついつ出やる 夜明けの番に
_鶴と亀が滑った、後ろの少年だあれ
少し、歌詞の間違ったかごめの唄が意識が薄い亜簾の耳元に入る。その声は、まるで母のように暖かな声で風邪の苦しみが少し和らぐように感じる。
「A…」
ぼやけた視界で声の方に目を向けると、長い艶のある黒髪が見えたが目を隠されてしまった。何かを考える気にもなれないが、ぼうっとしていると額に唇をのせられた気がした。
「…お慕いしておりんす」
「はっ…」
酷く夢見心地で、現実だったのか、都合のいい夢だったのか。辺りを見回すと、窓辺でうたた寝をしているAがいた。髪型は上の方で1つに結ばれていて、この時代でなければポニーテールだ。女と見間違えそうでもある。
熱の所為でぐわんぐわん、と頭痛の痛みが響くが怠い身体でゆっくりと立ち上がり、起こしてしまわぬようにAに近づく。Aの長い睫毛が影を落としていた。だが、目下には涙が流れたあとと、薄く腫れて赤くなった下瞼があった。
こんなにも、儚く美しかったであろうか。どうしてあんな顔をさせてしまったのか。抱き締めてしまいたい衝動を抑えるのが精一杯だった。
そっと、Aの手を取って口付けを落とした。
「…ンタ、何してんだよ…っ」
「起きたのか」
頭上から、声を掛けられて起きてしまったか、と後悔のため息を吐き上を向いた。が、ぐうと頬を手で押され見上げるのを拒まれる。まぁ、そんな抵抗をされても見えるものは見えてしまう。
薄く、紅潮した顔を隠しているのを。
そんな愛らしいことをされては目眩がしてしまう。愛しくて、愛しくて仕方がない。
「さっさと病人は寝ろ、」
「分かった」
正直具合は悪い。また倒れそうだ。
「…今、朝霧呼んでくるから、」
「待てA、朝霧の水揚げの相手になったのは…」
「華永野だ」
出て行こうとしたAの手を咄嗟に掴んだ。Aは拒否することなく立ち止まって振り向いてくれる。
「…っ華永野、その話は嘘だ」
「なんで朝霧は嘘を吐いた?亜簾様のことを好いているからか」
何処か苛立っているように感じた。だが、亜簾の手は振り払おうとはしなかった。
「違う…華永野が俺のことを考えてくれるかと思ったからだ!」
きっと風邪のせいだ。また告白じみたことをAに言ってしまった。Aはそこで亜簾の手から離れた。その顔は、さっきよりも紅かった。
「ばっかじゃねぇの」
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Ria。(プロフ) - 初めて見たのですが、、ッ好きすぎます。尊すぎます。こんな尊い小説があってもよろしいのでしょうか。ええ、もちろんあってよろしいです。この素晴らしい小説に出会えて良かったです!! (2022年4月29日 18時) (レス) @page46 id: 6d33a476b4 (このIDを非表示/違反報告)
大手裏剣(プロフ) - 藤雲ルアリナさん» あああ!お喜ばれる小説を書けていたようでとても嬉しいです!やる気でますね……頑張りますね! (2020年4月8日 15時) (レス) id: fe109e5f3f (このIDを非表示/違反報告)
藤雲ルアリナ - 世界観、空気、文体、ストーリー、もう何もかも好みです!毎回更新楽しみにしてます! (2020年4月8日 0時) (レス) id: 3165ea2c89 (このIDを非表示/違反報告)
大手裏剣(プロフ) - 氷浦メグさん» ひえぇっありがとうございます泣 これからも暇潰しにでも覗きに来てください… (2020年3月13日 17時) (レス) id: 54569fedb3 (このIDを非表示/違反報告)
氷浦メグ(プロフ) - 初見です。尊いですありがとうございます! (2020年3月13日 13時) (レス) id: 3357bae399 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:愛之助 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/oh19years/
作成日時:2019年2月16日 22時