22.徒花 ページ25
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「喧嘩するな」
突然の男に、子供たちはびくりと怯えはじめた。亜簾は美男子としても、この時代に合わぬ髪型としても有名だった。だが、仏頂面な顔のせいであまり子供は寄り付かない。
「ざ、ざんばらの兄ちゃん…」
一方、亜簾は子供たちの諍いの原因を見て、言葉を無くした。
「…っそ、それは…あのとき俺が…」
男の反応に、子供の一人が少し察して亜簾に近づき、玉を差し出した。それは、亜簾がこの世界へと送られたときに持っていた怪しい玉だった。
「これに…兄ちゃんのなのか?」
「…嗚呼」
「そ、そうなのか。返すよ…!」
ぐっと、責任を押し付けるように亜簾に渡すと、しょんぼりと肩を落とした。亜簾は、まるで自分が奪い取ったようで気が気でいられなくなり、自分の懐やらを探り出した。あったのは金平糖ぐらいだ。まあ子供には十分なものだろう、と思った亜簾はそれをあげた。
「なあに、それ?」
後ろから見ていた少女が小袋に入ったキラキラした金平糖を見て聞いてきた。
「金平糖だ。みんなで分けて食べるんだからな」
「ありがとう!」
しっかり子供たちは頷くと亜簾の前から去っていった。さて、どうしたものかと亜簾は手の中の玉に目を向ける。何の因果かかは知らないがこうして、また亜簾の手に戻ってきてしまった。だがもし、子供たちが知らずに持っていれば危険だし、亜簾が持つのは正解だったであろう。その後はすぐに淀屋へと亜簾は帰った。
「兄さん、どうかしんしたかえ?」
外を眺め続けるAの顔を朝霧が覗き込む。
「わっちはいつもと変わりんせんよ」
朝霧は長い間、自分の兄貴分のAをずっと見てきた。機嫌がいいも悪いも容易に気づくし、いつもと違うのも感じ取れる。どれだけ、Aが隠していても。
「…兄さん、若旦那のことどう思っておりんすか」
「何を言っておりんす、大事な客に決まっておりんしょう」
「兄さんっ、」
「馬鹿なこと考えるんじゃあないよ」
Aはジッと朝霧を見据えると、煙管を持って座敷から出ていった。朝霧にとってAは恩人で、唯一のAの見習いだ。自分の兄貴分には幸せになって欲しいと思っている。
「まず、兄さんには気持ちを認めてもらわないといけんせん…」
朝霧はやはり、亜簾にどうにかしてもらおうと考えた。
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Ria。(プロフ) - 初めて見たのですが、、ッ好きすぎます。尊すぎます。こんな尊い小説があってもよろしいのでしょうか。ええ、もちろんあってよろしいです。この素晴らしい小説に出会えて良かったです!! (2022年4月29日 18時) (レス) @page46 id: 6d33a476b4 (このIDを非表示/違反報告)
大手裏剣(プロフ) - 藤雲ルアリナさん» あああ!お喜ばれる小説を書けていたようでとても嬉しいです!やる気でますね……頑張りますね! (2020年4月8日 15時) (レス) id: fe109e5f3f (このIDを非表示/違反報告)
藤雲ルアリナ - 世界観、空気、文体、ストーリー、もう何もかも好みです!毎回更新楽しみにしてます! (2020年4月8日 0時) (レス) id: 3165ea2c89 (このIDを非表示/違反報告)
大手裏剣(プロフ) - 氷浦メグさん» ひえぇっありがとうございます泣 これからも暇潰しにでも覗きに来てください… (2020年3月13日 17時) (レス) id: 54569fedb3 (このIDを非表示/違反報告)
氷浦メグ(プロフ) - 初見です。尊いですありがとうございます! (2020年3月13日 13時) (レス) id: 3357bae399 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:愛之助 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/oh19years/
作成日時:2019年2月16日 22時