どうか朝には元気なきみで【完結】 (ページ3)

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山陽は扉の向こうに消える背を見送ってから東海道に声をかけた。机を回り込みながらわざと少し間延びした口調で名を呼ぶ。

「とーかいどー」
「........さんよ？」

反応は鈍いが東海道は一度で山陽を認識した。
ジュニアは気づかなかったという東海道がそう応えたことに、山陽はこんなときだが嬉しくなってしまう。

「そうです、山陽さんですよー。お迎えに参りました。」

横に回った山陽は東海道の手からそっとペンを取り上げる。

「あ、」
「さっきので終わりだろ？お疲れさん」

『終わり』という言葉に反応したのだろう、東海道はゆっくりと瞬きをして山陽を見上げた。常の東海道にはないぼんやりとした瞳に笑いかける。

「頑張ったから休もうかな....っと」

東海道がふらりと上体を揺らした。
それを支えて山陽は東海道の額に手を当てる。
冷却シートはたいぶ乾いており熱を拳に伝えた。

「よっ」

背と膝裏に腕を入れて東海道を椅子から持ち上げる。寒いのか腕の中の東海道が身体を丸めるように山陽の肩に擦り寄った。

「さんよう」
「ん？どうした？」
「さ、」

『山陽』か『寒い』か、一文字口にしたところで東海道はひゅっと息を吸って咳き込んだ。
コンコンと喉からあまり良くない音のする咳だ。これを繰り返すと喉を痛める原因になる。
山陽は東海道をソファに下ろして背を撫でた。

「苦しいよな。飴か蜂蜜でもあるといいんだけど、ここじゃなぁ。」

毛布を東海道に巻き付けながら山陽は部屋を見回した。こうなると東京駅の新幹線の部屋は便利だ。大抵なものが揃ってる。こちらだと一般的な風邪薬しか用意されていない。喉が楽になるような甘いものは探すより買いに行った方が早い。
なんとか咳をおさめた東海道は眉間に皺を寄せて苦しそうにしている。あまり動かさずにひとまず仮眠室で休ませることも考えたが、それでは明日になって治るとも思えない。今日の姿を思えば強制的に仕事場(駅)から離してしまった方がいいだろう。山陽は東海道を連れて帰ることに決め、タクシーに電話を掛ける。

「ちょっとだけ我慢して、歩けるか？」

山陽が顔を覗きこんで言うと東海道はコクりと小さく頷いた。東海道の帰り支度をした山陽はふらつく彼を支え、新大阪駅から少しのところにある西が所有するマンションの一室へ向かった。