悪の華【黒執事】 (ページ28)

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Aを先に寝室に向かわせて、ヴィンセントは待っていた

タナカ「旦那様」

「どうだった？」

タナカ「旦那様の見立て通りでございました、他の物は全て確認して参りました」

「他が外れなら、今晩あたり来てくれると助かるんだけど」

タナカ「エサは蒔きました、今晩中には」

「これで女王の憂いが晴らせる」

居室でワイングラスを持ち、優雅に口にする姿はまさに帝王のそれに見える

ガチャンッ

何かガラスが割れる音がした

それを合図のように、ゆっくりとヴィンセントが立ち上がる

コツコツ

ガチャリ

開けた部屋は普段は書庫室として使用している部屋

「ようやくお目当ての像にたどり着けた気分はどうかな？」

ヴィンセントのテノールのような美しい声音が部屋に響いた

それと同時に控えていたタナカが燭台に火を灯す

その炎はファントムハイブ伯爵が所有するタウンハウスに侵入した犯人を照らし出した

「くっ、どうして！」

「どうして来るのが分かったのか？

君の狙いが石膏の薔薇だと分かっていたからね。

正確に言えば、その石膏の中にある

〈双子の涙〉だろうけど」

「どうしてそれを知って…」

忍び込んだ男の目には驚きの色が浮かんでいる

自分の真の目的が知られているという驚きと焦り

一見して何の価値もない石膏の薔薇、

だが、ある人物からは絶対に他人の手には渡せない程の価値を持ったもの

「1年前あるマフィアに所属する男が〈双子の涙〉を盗み出した。

だが逃げる途中で仲間に裏切られ、それ以上の逃走は出来ないと悟り、ある場所に逃げ込んだ

それが石膏場

まだ乾き切っていない石膏の中に盗んだ宝石を埋め込んだ。

その埋め込んだ石膏が薔薇だった」

「くっ、そこまで知って……」

「だが埋め込んだ石膏は一点物ではなかったが故に１つ１つ壊して回る必要があった

真相はこんな所かな？」

ヴィンセントはこの真相を見抜き、あのテナード美術店で薔薇の石膏を購入した

価値がある石膏ではないが、製造元は同じ

最近ロンドンで壊されている薔薇はこれだと分かった

石膏を逆さまにした際に1年前にマフィアが逃げ込んだ石膏場の名前が押されていたから

タウンハウスに置けば必ずそれを狙って向こうからやって来るという算段だった

だが、自分が買った石膏に宝石が入っているかはわからない