悪の華【黒執事】 (ページ16)

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その当主、掌中ページ16

『かわいい、エドワードはお父様似なのかしら？』

揺り籠で眠るエドワードを見つめながら尋ねると、普段より随分と柔らく、既に母親の顔をしたフランシスが「まだ分からないわよ」と肩をすくめた。

『体調はどう？』

「問題ないよ、すっかり元通り」

『産後1週間で元に戻るものなの？』という言葉が口から出る前に扉が開いてヴィンセントが入って来る。

「数年前のフラニーには想像もつかなかった光景だ」

赤ん坊を見つめるフランシスを見て、まるで面白い物を見るようにヴィンセントが言う

『おかえりなさい、

言ってたより早く帰って来られたのね』

「歳を取ると話が長くなる連中との話し合いは早々に切り上げたよ

かわいい甥っ子の顔が見られるなら、早く帰って来て正解だったかな」

「かわいい甥っ子」と言いながら、揺り籠を見下ろす顔がほんの一瞬だが真顔へ変わる

『あくびするだけでも可愛いのよ』

「本当だ、かわいい」

どの顔がかわいいと言っているのかとフランシスは自分の兄が息子を見る横顔を見ながら秘かに溜め息をついた

『いつまででも見てられるわ』

「…俺は10秒が限界かな」

『こんなに可愛いのに』

自分で言った10秒ももたない内に揺り籠から離れて、ヴィンセントは少し離れた位置にあるソファに腰かける

『フランシス、抱っこしてもいい？』

「ええ、好きなだけどうぞ」

そう言うとフランシスはエドワードをAに抱かせると、ヴィンセントの隣に座る

「あれだけ子ども好きなら、我が子を抱く日も近そうですね、お兄様」

腕の中のエドワードをあやすAを見ながらフランシスが言う

「……」

「お兄様？」

「………子どもはまだ早いよ、フラニー」

「Aと結婚して半年、世継ぎを産むのは―」

「まだ早い」

「……」

しばらくするとエドワードが母親を求めて泣き始めた

Aが腕を揺すったりして何とか泣き止ませようとするが、泣き止む気配は見られない

『お母さんじゃないってバレちゃったみたい』

「まだ誰か母親か分かるような歳じゃないわ」

それでもフランシスが抱き上げれば、泣いていたのが嘘のように眠ってしまう

『母親ってすごいわ、ねぇ、そう思わない？』

「単に寝覚めが悪かっただけじゃないかな」

夫婦なのに正反対の反応をするものだと思いながら、フランシスはエドワードを抱いて生家を後にした