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『あなたがいなくなるのは嫌だから、行くのやめる?』
「その手には乗らないよ、A」
『……』
的が外れたように肩を竦めてみせるとヴィンセントは面白そうにクスクスと笑みを漏らす
「準備は終わった?」
『そう思うけど?
あとは出る前にブーケを持つのを忘れなければ完璧よ』
「さすがに女王相手に遅刻するのは気が引けるから、そろそろ出ようか」
いくらわたしでも女王陛下に招待されたのに遅刻する失態をするような勇気は持ち合わせていない
玄関ホールに出ると父と母が立っているのが見えた
『お父様!』
「あぁ、A」
ヴィンセントの腕にかけていた手を解いて父の元へ行く
「途中で気が変わりやしないかとヒヤヒヤしたが、その姿を見て安心したよ」
『そんなに心配してたの?』
「まぁ…お前は普通の女の子がしたがる事を嫌がるような節があるからな」
幼い頃のわたしを思い返しているのか、父が深いため息をついた
『そこまで不思議な子ではなかったと思うわ』
クスッ
「そう思ってるのは本人だけだよ」
隣に来たヴィンセントは父と同じ意見らしく含み笑いを見せる
「説得してくれた君には感謝してる、ヴィンセント」
「いえ、とんでもない」
お父様とヴィンセントが話してる間もお母様はわたしのチェックに余念がなくて髪を整えたり、ベールを直したりと忙しい
「陛下の前で粗相のないようにね、A」
『さすがに家名に泥を塗るような真似はしないわ、お母様』
「伯爵の言う事をよく聞いて」
『…小さな子どもじゃないんだから』
二言三言 ヴィンセントと話していたお父様の視線がこちらに向けられている事に気付く
『……お父様?』
「次に純白のドレスを着るのはお前が結婚する時になるんだな」
感慨にふけるように口にする父にヴィンセントは何と返事をしたものか迷ってるのが分かる
『婚期を逃すよりは良いでしょ?』
短く「そうだな」と言って小さく二度ほど頷く父を見てヴィンセントは苦笑している
「さあ、あなた引き留めるのはそれぐらいにして。
陛下の招待に遅れる訳にはいかないわ」
「ああ、そうだな。
ではA、楽しんでおいで」
『ありがとう、お父様
行ってきます、お母様』
母から白い花だけで作られたブーケを受け取って馬車に乗り込む
「あの様子だと結婚式には泣かれそうだ」
ヴィンセントが困っている姿は滅多に見れないので、こんな姿が見れるならデビュタントも悪くないと思える
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作者名:water lily | 作成日時:2019年1月20日 23時