【Q|K】影の薄い彼女は薄影さん #2【izw】

。 ページ37

「ッくそ…なんでだよ……なんで、相談してくれないんだよ…」


　ドア越しに聞こえる、伊沢さんの声。好きで好きで、堪らなかった声。その声が震えているのを聞きたくなくて、なるべく足音を立てないように、一歩一歩踏みしめるように階段を降りる


　エントランスにたどり着くと、そこには誰も居なかった。あれ以上追っては来なかった、ということだろう
　自動ドアを潜って、マンションの前で小さくお辞儀をしてから、自宅がある方に足を向ける

　…足元に真っ直ぐ伸びる自分の影。心なしか、その影が他の人より薄くなったような気がして、何故か少し、安堵を感じてしまう

　あぁ、やっぱり…







.








　私は、光を浴びることに向いてなかったんだ








.







伊沢side


　川上にやっと自分の思いを気付かされて、第三者情報ではあるが両思いだということも分かったのに、意気地無しの俺はなんの行動にも移せず、結局一ヶ月経ってもなんの進展もなかったその日
　日に日に元気が無くなっていくAちゃんに別室に呼び出されて、こんなところに呼び出してどうしたんだ、と疑問に思っている俺の前に、一つの封筒が差し出された

　その封筒には、大きく三つの漢字が並んでいた。退職願、と


　信じられなかった。確かに俺の勝手な想像ではあったが、Aちゃんはもうずっと、このQuizKnockで一緒に仕事をしていく存在だと思っていたから
　そしてなにより…俺自身が、信じたくなかった


「…今まで…ありがとう、ございました」


　深々と頭を下げるAちゃんはそそくさと部屋を出ていく。追いかけるべきか、Aちゃん自身が辞めると言ったのだから、追いかけないべきか、と心中で葛藤して、やっと足が動く
　急いでオフィスを飛び出してエレベーターの元に向かっても、もうそこにはAちゃんの姿はなかった


　一足、遅かった


　数字が小さくなっていくエレベーターを見て、非常階段を使おうかとも思ったが、流石にそこまでして追う気にはなれなかった。あくまで、これは本人の意思なのだ。Aちゃん自身が、決めたこと
　それに対して俺が口出しをする権利も、無理に取り消させる権利もない


「…なんで、相談してくれないんだよ…」


　なんでそんな決断をする前に、俺を頼ってくれなかったんだよ、Aちゃん…―――

。→←。

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す