【Q|K】影の薄い彼女は薄影さん #2【izw】

１８話　影が濃くなるということ ページ35

. ―――影が濃くなるということは、こういうことなのだろうと思った


　能力のことが視聴者さんの間ではかなり広まって、嬉しいことにテレビにも呼んでもらえることが増えた

　TQCにお邪魔したときお世話になった水上さん達とも東大王に呼ばれて何度か共演させてもらったり、雑誌などでインタビューをされるようになったり、伊沢さんに声をかけられるまでの私では、絶対に想像も出来なかったことが、今現実で起こっている


　嬉しい。嬉しいんだ。でも、何故か―――怖くも、感じてしまう


　前までの私は、誰の目にも止まらなかった。スルーされるのが当たり前で、声をかけられないのが当たり前で、表彰されたときでさえ視線が集まらなかったのに、普段の生活を送るだけで視線が集まるなんて思ってもみなかった

　だから…怖いんだ。視線を感じない生活から、急に視線が集まる生活に変わったことが、怖くて、不安になる


　…これが、影が濃くなること、なのか


「あ、薄影さんだ！あ、握手してください！」

「うえぇええっ？！あ、あ、どうも…あ、ああありがとうございます…ッ」


　声を掛けられなかった生活が嘘かのように、最近は声を掛けてもらえることが多くなった。握手してほしい、とかマスク外した顔がみたい、とか、要望は様々だったけど、嬉しいことには嬉しくて
　私が握手しただけで跳び跳ねて喜んでくれてる女の子に私も自然と笑顔が浮かぶ


　でも正直、気持ちはまだ以前の影が薄い自分で、なかなか心がこの状況に追い付いてくれない
　ここ最近は常にそうで、リードで繋いだ心を無理矢理引きずっている気分で、いくら寝ても疲れが取れない


「す、すみません、遅れましたッ」

「あ、いーよいーよ、河村もまだ来てないし」


　夜もなかなか寝付けないことが多くなって、遅刻することも多くなってしまった
　スケジュールはそんなに過密にしてるつもりはない。寝る時間だって普通に確保できてるし、どちらかというと結構ゆとりがある方のスケジュールだと思う。なのに、上手くいかない

　きっと、こんなことを言ったら怒られてしまうと思う。自分から望んだんだろ、と呆れられてしまうと思う
　そうだと分かっていても、言いたくなってしまう


　―――元に、戻りたい、と


　ワガママだと分かっている。神様という存在がこの世にいるなら、今頃「折角望みを叶えてやったのに」と怒っていると思う。でも、私にはもう…耐えれそうに、なかった

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