あなたをさらいに夜がくる ２【文スト】【深夜廻】

夜廻４４.知らなくていい ページ7

「‥‥承知しました」


彼は決心した




その女がポートマフィアに取り入ろうとしているなら、俺が見極めないといけねェ



握った拳に、静かに力を入れた


＿＿＿＿
＿＿





「成る程、その様なことが

それで、何か収穫は？」





「笑えることに、なんもねェ

首領が知ってた程度の情報しか
分からなかった」




でもまぁ、と彼は言葉を続けた





「なんというか、拍子抜けだッたぜ」





「‥‥と言うと？」





「警戒した割りには、ただの小娘

別段取り入ろうとしている風もない」


俺にすがる姿も、うんざりしながら、太宰の愚痴をこぼす姿も




そこらの小娘となんら変わりない




俺の誘導尋問に気づいた様子もなかった




かくして、俺は、なんの警戒もされず、
「お兄さん的な存在」になってしまった
訳である




「左様で」



「あァ‥‥でも」




一つだけ思い当たる事があった



一瞬だけ見せた、あの瞳




勿忘草色の瞳に、陰がさし、
暗い色合いを見せる







その間、世界が止まっているかのような、
見たことの無いものを見せられているような
不思議な感覚に襲われた








奥まで知りたくなるような







光を閉じ込めたくなるような







あの瞳に首領や芥川が魅入られたのなら、まあ
分からなくもないと思った







そうですか、と言う芥川の表情は変わらない







「それを込みにしたとしても、Aの事を警戒する必要性はねェな」








「‥‥


‥‥‥妹のようだ、と仰っていたが」







「ばっ！それは首領の命で‥‥」





そう言いつつ、中原はそれだけでは
無いかも知れない、と思い出していた






太宰の愚痴をこぼすあいつには好感が持てたし
撫でた時に目を細めた姿は、妹のようだと
思ったのは確かだ






だか、それを口に出すのは癪だと思っていると
芥川が咳を一つした




「‥‥妹のようだと思っているのなら、それで
かまわぬ」




「どういう意味だ？」




芥川はそれに答えない




＿＿あの瞳の本質を知る人間は多くなくていい






あの瞳を見れば、必ず欲しいと思う






だから、知らなくていい







「まぁ、貴方ならその内気づいてしまいそうな
気もするが」






「だから何の話だよ！」







中原の言葉に振り返らず、芥川は去っていく





「アイツの名前呼んだ瞬間殺気飛ばしやかって

おっかねェったらありゃしねェな」







そんな事を呟かれていたのを、芥川は知らない

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